●ウイルスとの戦いは「ゲリラ戦」的側面があり、持久戦の可能性も
―― 今度は新型コロナウイルスの特徴についての議論に移りたいと思います。曽根先生は、特徴についてどのように分析されていますでしょうか。
曽根 これについては、病原性が強くないというところが実は怖いものだということです。普通、エボラウイルスのように非常に強力な病原性のあるウイルス、あるいは細菌のほうが誰もが恐怖を抱くと思われがちです。しかし、実は2年前にジョンズ・ホプキンス大学のセンターが警告を出しています。それは、症状が現われないまま感染が拡がる、つまり軽症者や無症状者がウイルスを運んで世界にウイルスがばら撒かれるということで、その怖さを指摘していました。最近では新聞などもその研究成果を取り上げていますが、そうした提言があり、これは従来の感染症、あるいは公衆衛生についての考えとはずいぶん異なる問題があると思っていたのですが、今回、中国の武漢からウイルスが出て、それが現実になってしまいました。
このウイルスはとても見えにくく、扱いにくいものなので、ウイルスとの戦いは「核兵器戦争」に対する「ゲリラ戦」のようなものだと考えられます。誰がテロリストか、あるいはスパイなのか分からないから皆殺してしまう、あるいは皆制限してしまうという、そういった類の話に近い。つまり、抑止が効かないのです。
そういう意味で、このウイルスとの戦いには、一つは「ゲリラ戦」的側面があり、誰がウイルスを持って運んでいるか分からないという問題と、もう一つはどうやら長期戦・持久戦になる可能性もあるという問題があるのです。
持久戦はなかなか厄介で、1~2週間の我慢はできますが、半年や1年間我慢するのは、政治的にはとても難しい話です。このウイルスはそうした面を持っているのではないでしょうか。ですから、終息をどのように読み解くかが重要です。スペイン風邪のように二波や三波があるかもしれないということを考えると、今回は扱いがかなり難しい問題の代表だといえます。
●抗体検査の早期実施とワクチン・薬の開発が持久戦の希望となる
―― その点について、小宮山先生はどうお考えでしょうか。
小宮山 曽根先生のおっしゃる通りです。私が一つ感じるのは、自身の講義の中で英語と日本語の情報についての話をしましたが、日本国内だけで話をしていると、ネガティブな話しか出ないけれども、海外に目を向けると必ずしもそうではないということです。抗体検査を行って前に進もうという話もそうです。
この状況から抜け出すために必要な条件として私は、講義(脱コロナを「知の構造化」で考えるシリーズ)の中で「新規の感染者がある程度減ること」「実態を明らかにすることであること」「医療現場が安定すること」の三つを挙げましたが、このような議論はほとんど欧米から始まっています。
曽根先生がおっしゃるようにウイルスとして病原性が弱くて感染力が強いため、PCRで検査した数よりも、数十倍の人が抗体を持っているらしいという話にもつながってきます。ですから、欧米では抗体を持っている人の数を早急に調べて、それを社会的隔離をだんだん減らしていくために利用しようという動きをしています。
また、このウイルスのワクチンや薬の開発が想定しているよりももっと早く進むのではという期待もあります。これは希望でもありますが、おそらくそうなるでしょう。ですから、この両面をにらみながら前に進むことが持久戦ということではないでしょうか。
曽根 抗体の話は、とても良いご指摘だと思います。PCR検査は、一般の方はなかなかできませんが、抗体検査はかなり簡便にできる可能性があります。どれくらいの人が免疫を持っているかの調査は、今からでも準備をして、どのくらいの人にまで拡大できるか計算しておくべきです。
小宮山 そう思います。
●日本の政策対応にはかなり場当たり的な印象がある
―― また、議論としては、小宮山先生のご講義で学校閉鎖(一斉休校)のお話があり、日本の政策についてのご指摘もありましたが、曽根先生からご覧になって、今回の新型コロナウイルス問題おける日本政府の政策対応について、どのような問題点があるとお考えでしょうか。
曽根 現在の日本の政策対応には、かなり場当たり的な印象を受けます。学校の一斉休校について、感染症の専門家や公衆衛生の研究者は、「あの一斉休校は、春休みが終わったら皆が復帰する前提で行われた可能性があるのではないか。しかし、今回の戦いは長期戦なので、スタートからそのような政策で飛ばしたら、国民が息切れしてしまう。もっと長期戦で国民に我慢してもらうことを考えておかなければならない」と大変に心配していました。つまり、コロナ疲れといいますか、飽きが来てしまうという...