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集団免疫の形成には社会の構成者の6割の感染が必要なのか

免疫の仕組みからポストコロナ社会を考える(2)集団免疫の新しい考え方

情報・テキスト
個人レベルでの免疫の獲得は重要だが、それ以上に重要なのが集団としての免疫の獲得である。集団内で免疫を持っている人がある程度いれば、大きな感染拡大は起こらず、社会不安を防ぐことができる。集団免疫に関しては、新旧2つの考え方があり、古い考え方は現在の免疫学からかけ離れているという。いったいどういうことなのか。(全11話中第2話)
※司会者:川上達史(テンミニッツTV編集長)
時間:10:36
収録日:2020/06/04
追加日:2020/07/01
≪全文≫

●個人レベルでの免疫獲得から集団としての免疫の獲得へ


―― それでは宮坂先生、次に集団免疫に関するお話をよろしくお願いします。

宮坂 ウイルスの防御に関しては、個人レベルで免疫力を上げて感染を防ぐ重要性が指摘されると同時に、集団免疫の重要性もしばしば議論されています。例えば、一定の集団内で多くの人が免疫を獲得すれば、免疫を持っていない人がその集団内にいても感染しにくくなるはずだ、などといわれています。その集団免疫について、簡単にご説明したいと思います。

 こちらのスライドの左側には、ワクチン接種を行うことで、個人を守るだけではなく、集団、すなわち社会を守ることにもつながる、これがすなわち集団免疫の考え方だと書いてあります。

 このスライドには縦に3つのパターンを示しています。その一番上の行を見ると、まず左側には、免疫をまったく持っていない丸顔の白い人ばかりの集団があります。このような集団の中にウイルスが入ってくると、多くの人が感染を示す黒い顔になってしまいます。今回の場合であれば、新型コロナウイルスにかかってしまうということです。この場合では、1人を除き全員が感染したように書いていますが、こうした状況が起こり得るとこれまでいわれてきました。つまり、集団に免疫がないので、多くの人が感染してしまう状態だといわれているのです。

 一方、真ん中の行では、灰色の顔で示していますが、一部の人は免疫を持っています。社会の中の一部の人が免疫を持っている、例えばこの集団の上半分の人がウイルスに感染すると、発症するのは免疫を持っていない人で、発症しないのは免疫を持っている人です。すなわち、大部分は感染しますが、あらかじめ免疫を持っていた人は発症しないのです。一方、下半分の2列はウイルスには曝露されなかったので、この人たちには感染しません。このような状態も、集団としてはまだ免疫がない(-)という評価をこれまで下していました。

 最後に、一番下の行では、大部分の人の顔が灰色で、一部の人だけ顔が白くなっていることが分かります。すなわち、大部分の人が免疫を持っている状態でウイルスが集団内に入ってきても、免疫を持っていない人が感染するのみで、集団としては感染が広がることはありません。これまでは、このような状態を集団免疫あり(+)と判定していたのです。

 ところが、こうした考え方には、集団を構成する人たちは全て均一だと仮定しているという問題点があります。例えば、一定量のウイルスが入ってくれば全員感染する、あるいは半分が感染する、だれも感染しないなどと、非常に雑駁な議論をしていたのです。しかし、実際にはそうした仮定は当てはまらないことが分かってきました。


●集団免疫閾値という指標


宮坂 次に、この集団免疫を決める値として集団免疫閾値がしばしば用いられるので、この指標について説明します。

 集団免疫閾値とは、集団免疫を獲得するために達成すべき免疫保有者の割合のことです。例えば、集団免疫閾値が60パーセントであれば、社会の構成員の60パーセント以下しか免疫を持っていなければ、感染が広がる危険性が高くなります。集団免疫閾値の公式は、スライドに書いてあります。R0はいわゆる「基本再生産数」と呼ばれる数字で、この公式に代入することで、集団免疫閾値が決定されます。例えば、R0を2.5とすると、この公式に当てはめると60パーセントという数字が出てきます。

 その下に、これまでに知られているさまざまなウイルス感染症における、基本再生産数と集団免疫閾値の概算に関する表があります。例えば、麻しん(はしか)は感染力の一番強い感染症といわれていますが、基本再生産数は12から18程度です。すなわち1人が感染するとその人からさらに12人から18人に感染が広がります。

 おたふく風邪の場合、麻しんより基本再生産数はかなり下がりますが、先ほどの公式にこの基本再生産数を当てはめると、それでも75から80パーセント以上が免疫を持っていなければ、集団免疫は得られません。風しんやポリオもほぼ同じです。一方、インフルエンザは基本再生産数が弱いウイルスであれば、1人の感染者から1.4人程度しか感染は広がりませんが、強いウイルスであれば1人の感染者から4人程度感染が拡大します。こうなると、集団免疫閾値は30から75パーセント程度となるといわれています。

 新型コロナウイルスの場合には、これまでの統計、特に初期段階での中国の数字ですが、1人の人間から平均2.5人に感染が拡大するといわれています。したがって、R0を2.5として計算すると、先ほどの公式から60パーセントという数字が出てくるわけです。この結果に...
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