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「正しいデータを知って、正しく恐れる」ことが大切

脱コロナを「知の構造化」で考える(4)致死率が示す意味

小宮山宏
東京大学第28代総長/株式会社三菱総合研究所 理事長/テンミニッツTV座長
情報・テキスト
各国の状況をさらに比較すると、致死率に大きな違いがあることが見えてくる。国の規模や人口を問わず、感染者数に対する致死率にはばらつきがあるが、そこからは「正しく恐れる」ことの重要性が見えてくる。(全8話中第4話)
※インタビュアー:川上達史(テンミニッツTV編集長)
時間:06:24
収録日:2020/04/22
追加日:2020/04/29
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≪全文≫

●クルーズ船の致死率がWHOの数字に近いことの意味


小宮山 それではさらに、何が一番怖いのかを考えてみましょう。感染することはもちろん怖いのですが、現時点ですでに、知らずに感染している人がものすごく多いのです。それについては、後で申しあげますが、感染するよりも怖いのは、死ぬことですよね。それについてまとめたのがこの表です。

―― 100万人当たりの死亡者数と致死率ですね。

小宮山 そうです。100万人当たりの死亡者数とは、その国の国民(100万人当たり)の数です。致死率は感染者のうちどれくらい亡くなるかです。WHOは当初、これが2パーセントくらいだと発表した、その数字に相当します。世界にある200くらいの国を、死亡者が多い国から少ない国まで序列化して、毎日更新されているデータがあるのですが、これはそのデータを見て、主なものを選んで並べ替えたものです。

 これを見ると、一番(100万人当たりの)死亡者数が多いのは、ダイヤモンドプリンセス、すなわちあのクルーズ船です。クルーズ船では、20パーセントほどの人が感染し、実際にお亡くなりになった方は13人なのですが、100万人当たりに換算すると、約3500人が死んでいることになります。

―― これは小規模で密閉されていたからということですね。

小宮山 そういうことです。致死率は1.8パーセントでした。これはWHOのいう2パーセントに不思議と近い数字です。ですが、これは意味が違います。クルーズ船の乗客は高齢者の割合が非常に高いのです。高齢者だけでいえばWHOが出している致死率は20パーセントほどになっているはずです。それに対してクルーズ船では1.8パーセントしか出ていません。ということは、詳しい理由は分かりませんが、ダイヤモンドプリンセス号ではしっかりとした手当がされていますよね。そのような環境下では、あまり人が死なないということを示唆しています。

―― これは、日本の医療現場で手当したわけですから、その処置が良かった可能性があるということですね。

小宮山 そうです。おそらくそうした影響があるでしょう。医療破綻をしなかった(場合の、高齢者中心の真の致死率に近いものが表れた)ということかもしれません。


●国ごとで致死率は大きく異なる


小宮山 サンマリノという国をご存じですか。

―― はい。知っています。

小宮山 イタリア半島に位置する非常に小さな国です。ここでは100万人当たり1149人が死んでおり、致死率は8.4パーセントです。われわれが知っている大きな国であるベルギーは一番致死率が高く、14.6パーセントです。

 再び小さな国は致死率が高いのか、ということですが、アンドラってご存じですか。フランスとスペインの間にある小さな国です。私は今回初めて知りましたが、ここは先ほどのサンマリノと比べて、致死率はずっと低い。

 その他、スペイン、イタリア、イギリス、オランダ、スイス、スウェーデン、アメリカあたりまでは、かなり苦戦しています。

 ところが、ベネルクス3国で見ると、ベルギー、オランダは致死率がそれぞれ14パーセントと11パーセントであるのに対し、ルクセンブルクはたった2パーセントです。ルクセンブルクは、他の国と同様感染率が高いのですが、致死率は全然違ってきているということです。


●致死率が非常に低い国も多い


小宮山 さらに見ていくと、ドイツ、オーストリアと来て、世界平均の死亡者が(100万人当たり)22人で、致死率が6.9パーセントです。その下を見ると、これよりもっと数値が低い国がたくさんあることが分かります。先ほど示したアイスランドは、世界のなかでもかなり感染率が高い国ですが、致死率は0.6パーセントというような状況です。

 数値が低い国を見てみると、日本は100万人当たりの死亡者数は2人、致死率は2.4パーセントです。

 重要な比較対象としてインフルエンザの致死率を参照すると、2019年には、インフルエンザによって日本にいる人は3000人以上が死にました。100万人当たり25人以上ということです。だから新型コロナウイルスの世界平均の致死率は、日本のインフルエンザで死んだ人の比率と比べて、まだ数値が低い。日本(の新型コロナウイルスの致死率)に至っては、さらにその10分の1で、日本全体の数字として見ると、やはりわずかなのです。


●大事なポイントは「正しく恐れる」こと


小宮山 こうしたデータから必要となるのは、「正しく恐れる」ということです。たしかに恐れなくてはいけません。インフルエンザと異なるのは、まだきちんとした薬ができていないことです。そこが恐いのですが、今起きている現象はこれくらいだということを、よく知らなくてはなりません。これは非常に大事なポイントです。

―― やはり、怖さの正体をきちんと把握...
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