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「ウイルスによって免疫持続期間が異なる」という免疫学の謎

免疫の仕組みからポストコロナ社会を考える(4)ワクチンと免疫持続期間

情報・テキスト
予防接種が子どもの自然免疫を上げることに役立っている可能性は、大人や高齢者にも当てはまることである。また、新型コロナウイルスの免疫持続期間は比較的短いが、その理由はよく分かっていない。ただ、生活様式の変化やワクチン開発によって、集団免疫の達成を目指すことは可能であると、宮坂昌之先生は強調する。(全11話中第4話)
※司会者:川上達史(テンミニッツTV編集長)
時間:09:05
収録日:2020/06/04
追加日:2020/07/01
≪全文≫

●大人でもワクチン接種が免疫力を上げる可能性がある


―― これも非常に基本的な質問だと思いますが、子どもたちの場合はポリオや日本脳炎など複数のワクチンを接種することで、自然免疫が活性化している可能性があるというお話でした。一方、大人の場合、大半の方はインフルエンザワクチンを毎年接種するかどうか、といった頻度かと思います。この場合でも、例えば大人にインフルエンザワクチンを接種することで自然免疫が活性化するという可能性はあるのでしょうか。

宮坂 理屈でいえば、その可能性はあります。約20年前の研究ですが、東北大学の老年呼吸器内科の先生が、ある東北の高齢者施設でお年寄りにBCGやインフルエンザワクチンを接種した際に、どのような効果が見られるかを調べました。その背景として、高齢者施設でよく起こる嚥下性肺炎、つまりものを飲み込むときに気道にものが入ることが原因で起こる肺炎の発生率を、どのようにすれば下げられるか調べようと考えたのです。注意していただきたいのは、嚥下性肺炎のほとんどは、ウイルス性ではなく細菌性であることです。

 彼らが思ったのは、BCGやインフルエンザワクチンが効くかもしれない、ということです。もう一つ、ライノウイルスワクチンも使って、効果を観察しました。その結果、BCGを接種すると、確かに嚥下性肺炎の発生率が低下することが分かりました。興味深いことに、インフルエンザワクチンでも同じ結果が得られました。なぜかライノウイルスワクチンだけは効果がありませんでした。

 この結果から、お年寄りでも、ウイルスとは関係のない細菌という抗原に対する免疫ではあるものの、インフルエンザワクチンやBCGワクチンによる刺激によって感染抑制効果がある、すなわち免疫の抵抗力を上げることができるという結論が得られたのです。ですので、BCG以外の普通のワクチンでも同様の効果がある可能性はあります。もしそうであれば、無理にBCGを用いる必要はないのではないかと思います。

 また、もう一つの懸念はBCGによる副作用です。私たちのほとんどは、知らないうちに感染する、あるいはBCGの接種を受けることなどによって結核を経験しており、免疫を持っているわけですね。このような人にさらにBCGを打つと、ひどい腫れなどの大きな副作用が出る可能性があるとよくいわれます。しかし、先ほどの東北大学の研究では、そのような副作用は1例も観察されませんでした。実際に行ってみなければ分かりませんが、この結果からお年寄りに関しても特別な反応なしに自然免疫を刺激することは安全にできるのではないかと考えられるのです。


●コロナウイルスは免疫の持続期間が短いが、交差性がある


―― ありがとうございます。またもう一つ非常に重要なお話がありましたが、ウイルスの種類によって免疫の持続期間が異なるという点です。しかも先生の最後の指摘では、新型コロナウイルスでは持続期間が比較的短いのではないかと考えられているわけですね。

 例えば、おたふく風邪ですと比較的長く、ほぼ一生免疫が機能するというイメージでしょうか。それに比べて、新型コロナウイルスであれば、およそどの程度の期間持続するということになるのでしょうか。

宮坂 まず前提として、これまでに知られているコロナウイルスには3種類あります。1つは鼻風邪を起こすヒトコロナウイルスです。その中に、さらに4種類の分類がありますが、それが一つの単位です。加えて、SARSとMERSも類縁のコロナウイルスです。

 このように、新型コロナウイルス以外に、主に3種類のコロナウイルスがありますが、SARSとMERSの場合には免疫はおよそ1年程度持続するという報告があります。一方、鼻風邪ウイルスの場合、抗体の持続期間はおよそ半年程度で、1年はなかなか持続しません。ただし1年の間に徐々に抗体の活動は低下してきますが、もう一度感染した場合に、抗体がより速く産生されるようになります。しかし、抗体の持続期間を見ると、良くても1年程度ではないかと思われます。

 コロナウイルスにおいて興味深い点は、交差性があることです。先ほど、鼻風邪コロナウイルスには4種類の下位分類があるといいましたが、これらのウイルスを例えばA、B、C、Dとしましょう。Aに感染しても、Bに感染しにくくなるということはありません。ただし、症状は軽くなるのです。あるいはCやDに感染しても、その後にBにかかった際の症状は軽くなる傾向があります。これを、コロナウイルスの間にはお互いに交差性があるといいます。しかし、感染を止めるほどの強い免疫は形成されません。

 それでは、なぜあるウイルスは半年や1年しか免疫が持続しないにもかかわらず、おたふく風邪や、破傷風などは、20年から30年という期間、免疫が持続するのでしょうか。これは現在の免疫学の謎です。私たち免疫学者も、...
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