●スウェーデンよりも日本のウイルス対策で十分なのか
―― 曽根先生、前回までのお話に関してご質問はありますでしょうか。
曽根 宮坂先生の非常に重要なメッセージは、スライドの8ページにあると思います。特に右側の図に関して、これまでは集団免疫を獲得するには獲得免疫を持つ人が6割必要だといわれてきたと思うのです。しかし、十分な自然免疫を持っている社会の構成員の比率は測定できているのでしょうか。これは現実には非常に難しい問題だと思いますが、例えば、十分な自然免疫を持つ人が4割、獲得免疫を持つ人が2割存在すれば、合計6割という数字になるのでしょうか。
もう一つは、前回までの話でご指摘があった通り、隔離によって基本再生産数を1.2まで下げることを目指すべきなのでしょうか。それとも自然免疫を高めれば、強く隔離をしなくても基本再生産数を1.2前後に保つことが可能なのでしょうか。こうしたことが分かるか分からないかによって、今後取るべき対策は大きく変わってくるかと思います。
宮坂 そうですね。ご指摘の点をどう考えるかで今後の対策が変わってくると思います。
曽根 この点に関して、お教えいただけますか。
宮坂 ご指摘のように、新しい考え方では集団免疫を考える際には、抗体による免疫だけが全てではありません。自然免疫も重要だとすれば、自然免疫は集団免疫の形成に全体としてどの程度貢献するのか、という点はよく分かっていません。
しかし、私の考えでは、集団の10パーセントから20パーセントの人たちは、かなり強い自然免疫を持っており、よほど大量のウイルスにさらされない限り感染しません。つまり、比較的抵抗性のある集団が、10パーセントから20パーセント程度いるのではないかと思っています。感染がこのまま拡大していけば、そのような強い自然免疫を持った人たちだけが残っていく可能性があります。その場合、徐々にウイルスが感染しにくい集団が選択されていくことになるわけですね。
しかし、その場合には感染した人が、高いスピードで亡くなるという仮定が必要です。例えば、スウェーデンはこの方針を取り、亡くなる方は仕方がないものとして、生き延びる人たちの中で抗体を持つ集団を増やそうとしています。あと1年から2年持ちこたえれば、効果が出てくるかもしれません。
しかし、100万人あたりの死亡者数では、スウェーデンの値は日本よりもおそらく数十倍から100倍近いのではないでしょうか(2020年6月22日現在、死亡者数は日本が8人で、スウェーデンが500人、出典:Worldometer)。そこまでの被害を受けながら、集団免疫を獲得することが本当に重要なのか、それとも日本のように緩いロックダウンや交通制限だけで比較的良い結果を得ているのであればそれで良いのかという点は、比較衡量しなければなりません。私個人の考えでは、日本の対応で十分だと考えています。したがって、抗体オンリーの古い集団免疫説に則ると、非常に危険だと思っています。
●BCGの集団接種を行っている国とそうでない国を比較すると
宮坂 それから、この自然免疫がどの程度持続するのか、それをどのように調べたら良いのかという点です。これに関しては、今、私たちの間でも議論が行われています。自然免疫の強さをどうにかして客観的に計測する方法を考えていますが、現段階で最善の方法に関してコンセンサスは得られていません。
また、予防接種によって自然免疫が刺激された場合に、どの程度その効果が持続するのかという点も、私たちは非常に関心を寄せています。おそらく、自然免疫が以前見た病原体をまったく覚えていないという以前からの説は、これは明らかに誤りだと考えられます。おそらく、一度見た病原体を、数ヶ月から1年というスパンで記憶しているでしょう。コロナウイルスに関する問題としては、例えば40歳の人を例にあげると、BCG接種を受けたのは30年から40年近く前なので、本当に自然免疫がそれほど長い期間持続しているのかと考えると、それだけで自然免疫の強さを説明するのは難しいですね。
また、例えばBCGの集団接種を行っている国とそうでない国を比較すると、たしかにコロナウイルスを原因とした死亡率は大きく異なります。しかし同時に、死亡率の高い国のほとんどは欧米に位置しており、死亡率が低い国は東アジアを中心としたアジアや、アフリカなどに位置しています。このような地域差もあるのです。
同じアジアやオセアニアを見てみると、例えばオーストラリアはBCGの集団接種を20年以上前に廃止しているのですが、人口100万人当たりの死亡率は日本より低い。ニュージーランドも同様にBCGの接種を行っていませんが、死亡率は日本よりも低いのです。このように、BCGを接種していなくても、日本と同程度か...