●政治にスピードを持たせる必要がある
橋本 今回のもう一つのチャレンジは、政治にスピードを持たせる必要があり、これがものすごく難しいです。
―― 現在、3月末頃の段階ですが、先生からご覧になると、政治のスピードに関する課題はどのあたりにありますでしょうか。
橋本 非常に多くのことが同時に起こっているので、専門家会議がタイムリーにアドバイスを出してはいたものの、優先順位を付けづらかったという問題があります。優先順位を付けるために重要なのは、最終的にどこに着地点を求めるのかについてのビジョンです。言ってみれば、今回の新型コロナウイルス感染拡大のコントロールについて、短期ビジョン、中期ビジョン、長期ビジョンが立てにくかったのです。
―― まさに新しい病気でもありますしね。
橋本 最初に情報がなかったので、そうしたビジョンを立てられませんでした。しかし、情報が出てきた段階でビジョンを明確に立てる必要が出てきました。その時にすでにさまざまな問題が新しく噴出しており、目の前の問題をクリアするので精一杯になっていました。それが一番の政治的ジレンマだったと思います。
●クラスター対策班は非常に重要な役割を担っている
―― その意味では、クラスター対策班の設立は重要な意味を持っているということでしょうか。クラスター対策班によって、クラスター(患者集団)がメガクラスターになっていかないよう、早期発見し、うまく隔離することができているということでしょうか。
橋本 彼ら(クラスター対策班)は本当に良い仕事をしています。クラスターの数がある程度以下であれば、早期発見と隔離ができるので、感染者数の急増を遅らせるのに有効な方法だったと思います。ただし、クラスター追跡によって最後まで感染を抑えられるとは限りませんし、専門家のあいだでも、そう考えられていました。一定程度のスピードで広がっていけば、いつかクラスターの数が増えすぎてコントロール、あるいは管理できなくなったり、そもそもクラスターが見当たらない、いわゆる感染源不明者が一定数出てきたりするということは、ウイルスの性質が明らかになってきた段階で分かっていました。
●ロックダウンまでにいかに時間を稼ぐか
―― つまり専門家の皆さんの間では、そうした状況は想定済みで、いかに時間を稼ぐのかが議論されていたということですね。
橋本 そうです。クラスター対策班が頑張って時間を稼いでくれているあいだに、ロックダウンのときに起こり得る問題にどう対処し軽減するのかという、次の段階の議論になります。ただ、すでに疫学的にはコントロールが効かなくなっており、ロックダウンという対応を取る他ないという段階に来ています。
―― 日本ではこれまで、ロックダウンのような封鎖はなかったと思いますが。
橋本 世界的にもありません。そんな簡単に行えることではありません。
●ロックダウンは伝家の宝刀である
―― そうですよね。そのためには、相当な準備が必要だと思うのですが。
橋本 どの国も、ほとんど準備せずに実行してしまっています。イタリアもニューヨークも、いきなりロックダウンを実施したので、準備はほとんどしていません。感染者が急増している状況において、ロックダウンは感染症の拡大をコントロールするための、ある意味で伝家の宝刀なのです。
―― 伝家の宝刀なのですね。
橋本 どうにもならなくなったら、ロックダウンしかないのです。ロックダウンを行い、クラスターの数が抑えられ、ある程度それがコントロールできるようになったら、再びクラスター追跡をすることによっていろいろと行うことができる。つまり、手に負えなくなった際には、ロックダウンという最後の切り札を使いましょう、ということなのです。その意味では、ロックダウンとクラスター分析は、最初と最後なのです。問題はその中間にやることがあるということです。
●ロックダウンのなかには良いロックダウンと下手なロックダウンがある
橋本 また、ロックダウンのなかには良いロックダウンと下手なロックダウンがあります。イタリアの現状を完全には把握していませんが、報道されている限りでは、混乱のなかで疲弊し医療崩壊が生じているなど、あまり好ましくないなかでロックダウンが行われているということです。
それに対して、同じロックダウンでも、中国の武漢以外で実施したロックダウンは、やり方は民主的かどうかという点で微妙な部分もあるのですが、かなりスマートだった思います。
―― 例えばどういった点でスマートだったのでしょうか。
橋本 人々の動きを全て規制して、日本のLINEに相当するWeibo(微博)を使って人々の行動をコントロールし、地下鉄に乗車・下車する際にもチェックさせました。もし陽性者の近くにいた場...