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専門的な知識と政策決定の関係は昔からの大きな課題

新型コロナ問題の現在地とこれからの課題(4)専門家と政治家の関係

情報・テキスト
新型コロナウイルスを取り巻く状況が刻々と変化する中では、反省しながらもどんどんと新たな取り組みを進めていく必要がある。そこで問題になるのは、専門家と政治家、あるいは専門的な知識と政策決定の関係である。つまり、専門的な知識をどうくみ取るかというのは、政治家にとって重要な問題なのだ。(全5話中第4話)
※司会者:川上達史(テンミニッツTV編集長)
時間:09:00
収録日:2020/07/16
追加日:2020/08/09
キーワード:
≪全文≫

●完璧なシステムを考えるよりも積極的に新たな取り組みへ


―― (前回のお話を受けて)ある意味ではそういった社会的な組み立てをどのように練っていくかが重要ですね。

小宮山 そうですね。完璧なシステムを考える時間はありません。それが、最初に指摘した「アジャイル」という概念の話につながってきます。状況が刻々と変化しているので、今までの日本で行われてきたように、国家としての体制を議論して形成して、それからどうしましょうかという議論ではないのです。

 そうしたときに、例えばPCR検査に関しても、これまでの少なくとも10倍、できれば100倍程度に増やしていく必要があります。また、新しい検査方法が次々と出てきているので、国の認可過程などに関係なく、正しいと思えばどんどんと進めていく。今いいと思うことをどんどんと進めていく。それが、反省しながら前進するための必要条件だと思います。


●専門家の意見を政治的意思決定にどのように反映していくべきか


―― はい。今非常に重要なご指摘があったと思います。政治家など、特に医療が専門でない人々が、この問題について考えて動かなければならない状況です。こうしたアンノウン(未知)の問題に対していかにアジャイルに対応するかという中で一つ大きな問題になるのは、さまざまな専門家が異なる主張をする中で、政治家はそれをどのように受け止めて、どう判断していけば良いのかということです。

 これは医学に限らず、経済問題など、さまざまな分野で当てはまります。曽根先生、政治家としては、専門家の意見の取捨選択にどのように判断していけば良いのでしょうか。

曽根 はい。前提条件として、今回の新型コロナには、未知という問題と、そのことに対する恐れという問題があり、つまり「分からないから怖い」という心理が国民の根底にあります。ですので、最後にはその国民の心理を乗り越えなければならないのですが、政治家はどうしてもそれを前提として議論せざるを得ません。

 もう一つ、専門家と政治家、あるいは専門的な知識と政策決定の関係は、昔からの大きな課題です。つまり、専門家が意思決定に加わった方が良いとする一つの立場と、逆に政治家が専門的な知識や基本的なデータを読み込む能力を持つ必要があるとする、もう一つの立場があります。現実はその折衷なのでしょうが、大きく分けてその2つのどちらを取るかという問題になります。

 例えば、民間の企業経営でも、意思決定に統計の専門家を入れる企業は少ないのです。統計やデータ処理の人は、専門の部局を用意します。そこから報告が上がってきますが、それを丁寧に読み解くことは意思決定の場ではあまりなく、大まかに処理するというのが従来の形でした。ただ、意思決定に統計の専門家やデータの専門家が入れば、企業収益が大きく上がったという企業の事例もあるわけです。

 そのような意味で、専門的な知識をどうくみ取るか、吸い上げるか、読み取るかというのは、政治家にとって重要な問題なのです。今回も、いろんな専門家がさまざまな主張をしています。検査しない方が良いという人も多いですし、あるいは海外事例の解釈にも相当ばらつきがあります。そうした多様な意見を、政治家、あるいは意思決定者はどのように判断するかは、政治の最も重要な問題の一つなのですが、まさしく今、その問題に日本は直面していると思います。


●専門家を政治の中枢に入って意思決定を行うメリットとデメリット


―― 専門家が意思決定に参加するケースと、政治家が専門的なことへの理解を深めるというケースというご指摘がありましたが、話題となった台湾の事例だと、公衆衛生関係の専門家が、政治の中枢に入って意思決定を行うというモデルを取りました。中国も専門家を意思決定に組み込んでいました。こうした方法のメリットとデメリットについてご説明いただけますか。

曽根 はい。台湾やイスラエルなど、死亡率が低い国があります。その理由の一つは、専門家が意思決定に入っていることだと思います。もう一つの理由は、従来から臨戦態勢を取っている国は、政治的意思決定を下しやすいという一般的な傾向があると思います。

 ただ、イスラエルの場合には、三密の状況は正統派ユダヤ教社会で起きているのです。ですので、戒律にしたがって規制の遵守を拒否するような宗教団体があります。日本の場合には、同種の大きな問題は起こっていませんが、宗教的な戒律上三密の状況をつくらざるを得ないという見解と、科学的な判断に基づいてそうした状況は避けるべきだという見解のどちらを取るかという問題はあります。

 もう一つ、政治家、あるいは意思決定者は、エビデンスベースの政策決定を行うわけですが、エビデンスは確立することがなく、日々変わっていきます。日々変化していて、アンノ...
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