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江藤淳が調査した戦後日本の言論統制

「積極的平和主義」とは何か(3)戦後教育でゆがめられた日本人の危機意識

島田晴雄
慶應義塾大学名誉教授/テンミニッツTV副座長
情報・テキスト
『閉ざされた言語空間』(江藤淳著、文春文庫)
 
尖閣列島、もしくは日本周辺を世界が「今、最も危険な地域」と注目しているにもかかわらず、当の日本人の危機感はあまりにも薄い。なぜ、日本人の自国に対する安全保障意識はかくも低いのか? その根っこにある戦後体制に焦点を当て、歴史的視野から日本人の危機意識に島田晴雄氏がメスを入れる。(島田塾第115回勉強会 島田晴雄氏講演「安保意識と経済活力を考える~イスラエルとブラジルから学ぶもの~」より:全5話中第3話目)
時間:11:54
収録日:2014/07/08
追加日:2014/10/07
カテゴリー:
≪全文≫

●世界が危険視する尖閣列島と日本の危機意識


 日本の安全保障を今どう考えるかということですが、世界で最も危険な地域が、尖閣周辺だ、あるいは日本列島周辺だ、と言われているのです。というのは、中国軍機の異常接近というのがありますね。あれは、どうも軍部が勝手にやっている可能性があるからです。もちろん習近平国家主席は、全体をコントロールしているつもりはあるのでしょうけれど、なかなか国内的にも難しい問題なのです。

 ただ、あの中国軍機はひょっとしてミサイルを搭載していますから、ボタンを押せば0.001秒で、ぼーんと日本を攻撃できてしまうわけです。そうすると、一気に完全な戦争状態になってしまうことになりますよね。

 こういう状態について、「ザ・エコノミスト」などが社説で書いているのです。ちょうど6月28日が第1次大戦勃発の100年の記念日だったので、「尖閣列島はサラエボに似ているのではないか」というような内容でした。サラエボは、皆さんご存知と思いますが、セルビアという国にあったきれいな町です。そこにオーストリア・ハンガリー二重帝国という超巨大帝国があって、その皇太子がサラエボに来ていたときに、セルビアの青年が暗殺してしまったのですね。これで、もうオーストリアは怒って大問題になり、これが第1次大戦につながって、史上最悪の戦争になりました。このとき、初めて爆撃機や毒ガスなどが使われたものですから。軍人だけでも約1000万人が死んだとも言われています。

 そういう大事態に発展しかねない一番ホットなところが尖閣だと、世界中は見ている。一番気が付いてないのは日本人だということになります。そこで、日本はどういうことになっているかというと、先ほど言ったように、「自分だけ平和なら、自分だけ危害を加えなければこれでいいのだ」という考えですよね。


●防御力として必要な集団的自衛権


 憲法の前文にこう書いてあります。「平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した」。美しい言葉ですが、「大丈夫か?」「誰が書いたのだ、こんなもの?」といった感じですね。憲法9条は、「国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する」。皆さんよくご存知ですね。そして、「前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない」。とも書かれています。これを拡大解釈すれば、「集団的自衛権も駄目だ」ということになるのかもしれません。

 今回、集団的自衛権について議論があったので、さまざまな論者がいろいろなことをおっしゃいました。多くの人が言っているのは、「集団的自衛権を持つと戦争に巻き込まれる」ということです。皆さん、そう思いますか? 分かりますか? 少し僕には分からないのです。

 なぜかというと、日本は単独では絶対守れない国だからです。ですから、集団自衛でアメリカと一緒になって中国に対抗しないといけないのです。別に中国が何かする、と決まっているわけではないのですが、やはりお互いに手を出してはならないという防御力というものは見せておかないと、平和は維持できないのですね。残念ながら、人類というのはそういう動物ですから。ですから、すでにそこまで危機が迫っているときに、集団的自衛権を持ったら戦争に巻き込まれるというのは、全く逆のロジックです。

 また、辻元清美さんという民主党の女性の議員が、このように言っています。「もし、北朝鮮の艦船を日本が攻撃をしたら、どういうことが起きるか。直ちに彼らはノドン、テポドンで日本の原発にミサイル打ち込んでくるだろう。そうすれば日本は壊滅だ」と。それは壊滅しますよね。NHKと原発を攻撃すれば、日本は壊滅しますから。それでいいのか。よくないに決まっています。

 そうした悪心を北朝鮮に持たせないための集団自衛なのです。まるで論理が倒錯しているわけです。「あたかも危機が迫っているような言いぶりを総理その他がやっていて、憤りを感ずる」と、民主党の人たちが言っていますが、「憤りを感じるのは、どっちだ」ということです、これは。どうして日本人はこれほど変になってしまったのかと、私は思いますね。


●ポツダム宣言の精神-戦争責任を負うべきは軍であり、民衆ではない


 こうした議論は昨日、今日に起きたことではないので、ここで皆さんと一緒に戦後をざっと振り返ってみたいと思うのです。早急に少し復習します。

 敗戦と戦後体制についてなのですが。ポツダム宣言というのがありますね。ポツダムというのはベルリン郊外の小さな町なのですが、そこで、1945年7月26日に、アメリカ、イギリス、中国、これは蒋介石主席の中華民国ですが、この...
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