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“アメリカ”という概念の覚醒は欧州での7年戦争に起因する

“アメリカとは何か”~米国論再考Vol.2(1)アメリカの源流と地理

東秀敏
米国安全保障企画研究員
情報・テキスト
アメリカという国を理解するためには、その広大な土地をどのように開拓してきたのかを正しく知る必要がある、と東秀敏氏は強調する。アメリカの基礎は、英国系移民によって形成された。地理的な特徴を理解した上で、西部へと開拓を進めていく中で、アメリカという共同体が発展していくこととなる。(全4話中第1話)
時間:09:31
収録日:2020/06/11
追加日:2020/11/22
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≪全文≫

●アメリカの理解は開拓の歴史を踏まえることで深まる


 本日は、「米国論再考Vol.2」というテーマで、アメリカという発明に関して説明していきたいと思います。

 まずメインポイントから入ります。前回のシリーズ(Vol.1)では「The United States of America」は政体を指すのに対して、「America」という言葉は共同体を指すと指摘しました。それもまた発明なのです。1776年に誕生した米国革命政権により、広大なアメリカという土地、そしてそこに住む多民族の共同体から成るアメリカは、何度も変化を遂げてきました。

 最初のアメリカは、二流、三流貴族出身の冒険家と宗教亡命者であるピューリタンを主とする英国系の移民から成立していました。ここでいう英国系移民は、雑駁にいうと負け組といえるかもしれません。この勢力が国づくりに取り組み、その後ろにはハイリスク・ハイリターンを求める欧州ユダヤ系の投機家がいました。こうした背景が、シリコンバレーの起業精神につながっています。また、アパラチア山脈は、南北の分断の原点です。特に、アメリカ中西部にあるミシシッピ川盆地が産業の拠点となります。

 アメリカという概念の本格的な覚醒は、ヨーロッパで当時起こっていた7年戦争に起因する、北米で発生したフレンチ・インディアン戦争によって訪れます。この1754年から63年まで続いた帝国主義戦争を受けて、アメリカという概念が覚醒したのです。

 独立戦争後は、トマス・ジェファソンとアンドリュー・ジャクソンの大戦略思考に基づいて、西へ進む方向を選びました。ルイジアナ買収を経てテキサス共和国を併合し、広大な中西部を基盤とする本格的な大陸国家となりました。こうした動きは、「西漸運動」と呼ばれます。この運動に黒人奴隷を動員し、インディアンに対しては恭順要求、従わなければジェノサイドという姿勢で立ち向かいました。また、メキシコ等の新興国がいくつかありましたが、それらには謀略と併合という組み合わせで対応しました。最後に、欧州勢力をはじめとした列強には、ディール外交で強気に攻めていきました。つまり相手の強さのレベルに応じて、アメリカはしたたかに戦略を変えていったのです。

 本格的な海洋進出は19世紀末以降ですが、その方法はフロンティア開拓と同じです。アメリカの精神性は本質的には閉鎖的で、唯我独尊的な大陸国家と共通しており、国際色豊かで、国際秩序を基盤とする海洋国家の精神性とは異なるものです。ですので、米国=シーパワーという議論が通説となっていますが、私の見解としては、それは歴史に反する見方であると思います。文化的に見ても、アメリカは大陸国家であると思います。

 以上がメインポイントなので、以下それぞれ詳しく解説したいと思います。まずアメリカの源流を説明して、アメリカの地理、そして西漸運動と大陸国家の完成、そして海洋進出の矛盾。最後に、アメリカ外交の四つのベクトルを見ていきたいと思います。


●アメリカの源流は英国本国の傍流の人々によって形成された


 アメリカの源流を考える際に押さえておきたい点は、United Statesは政体、Americaは共同体を指すということです。これは、ロシアとルーシの関係、中国と中華、日本と大和のように対比ができると思います。この意味で、アメリカという概念も発明なのです。

 建国当初は、二流、三流の貴族出身冒険家と宗教亡命者であるピューリタンから成る英国系移民が国の基礎づくりをしました。彼らは英国国内では、先述した負け組に当たる人たちです。その背後には、多くのハイリスク・ハイリターンを求める欧州ユダヤ系の投機家がいました。特に、ジェームズタウン植民地が、貴族出身冒険家の拠点、プリマスという植民地が、ピューリタンの拠点として、アメリカの歴史は始まりました。

 土地の観点からも文化が異なる植民地が、最初から発生しているのです。建国の父の中でも、ジョージ・ワシントンは貴族出身の冒険家の末裔で、ジョン・アダムスはどちらかというと、ピューリタン系に当たります。このように、建国の父の中にも、背景の違いがありました。

 英国系のバックグラウンドは、WASP(White、Angro-Saxon、Protestantの頭文字を取った略称)という特権階級を生み出しました。


●地理的特徴から見るアメリカの発展の歴史


 こちらはアメリカの地理ですが、最初の着眼点として、二つの山脈に着目してください。東部にアパラチア山脈があり、西側にロッキー山脈があります。この山と山の間には、ミシシッピ川盆地と呼ばれる広大な盆地が広がっています。アメリカの特徴は、この...
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