●マハンのシーパワー理論が生み出された背景にルーズベルトとの師弟関係
―― 新興国の中でもメキシコの扱いは全く異なりますよね。
東 そうですね。
―― メキシコをどう見ていくか。当時のメキシコは脅威だったのですよね。
東 脅威でした。現在のメキシコは、麻薬ギャングなどで荒れているように見えますが、歴史的に見ても教育水準が高い国でした。当時のアメリカは教育インフラもあまり整っていなかったので、かなり脅威だったと思います。
―― その点で他の国とは異なりますよね。後はジャクソンも重要ですね。彼は謀略の限りを尽くしますね。メキシコとの戦争によってカリフォルニアを得ると、次は太平洋を目指すという流れです。
他には、以前はマハンの位置付けがよく分かりませんでした。マハンとセオドア・ルーズベルトの協力関係、そしてマッキンリーという気の良いおじさんがいました。ここでフィリピンとハワイを得るなど、帝国主義としてのアメリカに転換しています。
東 そうですね。
―― 実際にそれを指導したのがセオドア・ルーズベルトなのですね。
東 ここで重要なのは、セオドア・ルーズベルトが巨大な財閥利権を後ろ盾として持っていたという点です。マハンのシーパワー理論が生み出された背景には、セオドア・ルーズベルトとの師弟関係があったのです。彼は長年マハンのメンターを務めていました。一説では、マハンのシーパワー理論を実際に書いたのはルーズベルトだといわれています。それほど、ルーズベルトは海軍戦略への造詣が深い人でした。ハーバード大学の卒業論文も米国の海戦史をテーマとしており、海軍の歴史に詳しかったのです。
―― ルーズベルトとマハンの師弟関係はどこで築かれたのでしょうか。ハーバード大学ですか。
東 いえ、海軍です。海軍は造船のために莫大な費用を必要とするので、後ろに財閥がつくのです。
―― なるほど、財閥の支持が必須なのですね。
東 そうなのです。マハンは、幕末の頃、長州藩による四国艦隊砲撃事件の際に日本を訪れています。
―― そうなのですか。
東 神戸港に停泊しています。ですので、幕末当時の日本を目にしており、日本の侍の気質などを分かっていたのです。実際に船と船で戦えば、アメリカは敗北するかもしれないという危機感を抱いたのです。
●日本や中国を含む太平洋諸国に対するアメリカの姿勢
―― 後中国に対する進出は、奴隷制度が崩壊した後に、安い労働力を得るために行ったという指摘も、非常に分かりやすかったですね。アムトラックの枕木の数は、中国人の死者の数と同じだなどといわれますよね。中国に対するアメリカの進出は、ある種の人買いの要素があったということですね。
東 そうですね。アメリカの地理を考えると、南部に元黒人奴隷たちが集中しています。カリフォルニアまで彼らを輸送するのはとてもコストがかかります。それよりは、船で中国人を連れてきた方が安上がりだったので、次に目指すべきは中国市場と考えられていたわけです。大陸横断鉄道の建設にも、中国人苦力の果たした役割が大きいのです。
―― 日本に勝利し、国交を回復して、中国に工場を建設して儲けるところまでは良かったものの、予想外のことが起きたということですね。
東 そうです。
―― 次に、開かれたインド太平洋戦略は、日豪印に任せるという姿勢の現れだという指摘がありましたが、これもドイツからの軍の撤退と似たような戦略ですね。
東 私もそう見ています。ペンタゴンの人々と話すと、日米豪が一体となって、インド太平洋を開拓するといっていますが、トランプ政権周辺の人々はこの地域から撤退することを目指しているようです。開かれたインド太平洋という考え方は、地域諸国に覇権運営を委任するロジックだと、私は捉えています。
―― やはり、自分の国は自分で守るということが鉄則で、アメリカの対外情勢への対応の変化を見誤ると面倒なことになりますね。
東 そうですね。アメリカは基本的に短期的な視点で物事を考えます。そのため、いつ方針転換するのか予測がつきません。歴史感覚を身につけ、当事者との接点を多く持つことが、そうした転換に対応するためには重要となります。
―― 岡崎久彦氏(外交評論家)が、「日本人にとってアメリカ人は非常に理解しづらい」といいました。アメリカは理念の上に国を作ったために、自然に存在していた島に国をつくった日本からは最も遠い存在だというのです。
東 まさにその通りですね。
―― 世界の中に一つくらいこのような国があると、人が逃げて来られるので良いですが、実際のところ厄介な側面もあります。しかも、その国がものすごい勢いで変化しようとしています。この変化が顕著になってくるのは、2021年あたりからでしょうか。
東 その通り...