●50年周期で変遷する社会経済サイクル
次に社会経済サイクルについてお話しします。
社会経済も、発明なのです。その時代ごとの広大な土地と多民族の統治論理に影響されて常に変遷します。
アメリカの特徴は、土地利用という発明品です。フロンティア開拓時代は、その広大な農地を急速に開拓して、さまざまな民族を入植させました。インディアンを追い払い、黒人のプランテーションなどを作っていきました。そして、工業化、テクノクラシーの時代になると、工業地帯として、ニューディール時代には公共事業投資のために用いられていきました。
現在の土地利用に目を転じると、有り余った中西部があります。未開拓のフロンティアです。一度開拓されましたが、完全には開拓されなかった土地です。ここにさまざまなテクノロジー系のスタートアップを基盤とする産業エリアがあります。
例えばテキサス州には、オースティンという都市があります。私も昔住んでいました。ここは「第二のシリコンバレー」と呼ばれ、現在急速に成長しています。昔のオースティンには、農場しかなかったのですが、現在ではテクノロジー系のスタートアップが集う、第二のシリコンバレーとして人々の耳目を集めています。カリフォルニア州のシリコンバレーに比べて税金がかなり安く、ビジネスがしやすい環境が整えられているためです。
話をもとに戻すと、社会経済サイクルは、国内矛盾解決のための応急措置として出現することが多いのです。基本的には制度サイクルを維持するための対策なのです。そして、サイクルの期間は、約50年です。そして、これは戦争に起因するサイクルではありません。戦争に起因する制度サイクルとの違いとして理解していただければと思います。
●5つの社会経済サイクルと米国史の関係
現在までに5つのサイクルが出現しました。第一社会経済サイクルは、1783年から1828年まで続いたワシントン・サイクルです。第二社会経済サイクルは、1828年から1876年まで続いたジャクソン・サイクルです。第三社会経済サイクルはヘイズ・サイクルで、1876年から1929年まで続きます。第四社会経済サイクルは、1932年から1980年まで続いたルーズベルト・サイクルです。最後に、第五社会経済サイクルはレーガン・サイクルです。これは今の新自由主義的サイクルで、1980年から2030年あたりまで続くといわれています。
この中でも、ルーズベルトとレーガンの対比が非常に重要です。ルーズベルトの時代には、アメリカは準社会主義的政策を取りました。ニューディール政策によって、アメリカの土地利用がフロンティア開拓という意味合いを失い、公共事業に多額の投資を行いました。その象徴がフーバーダムです。このルーズベルト・サイクルを加速させたのが、第二次世界大戦でした。第二次世界大戦によって、アメリカの公共投資を基盤とした工業化が、一気に進みました。
しかし、そのルーズベルト・サイクルが、やはり80年代前後には、矛盾をきたしました。そこでレーガンが抜本的な改革を行いましたが、ここで取られたのが新自由主義政策です。この際に、国内の産業基盤がアメリカから諸外国に移ってしまいました。特に中国に移ってしまったのです。その結果、アメリカはその産業基盤の多くを失ってしまいました。その結果、産業の空洞化が進んでいったのです。
この際に最も大きな打撃を受けたのが、ヘイズ・サイクルによって発展した産業領域です。ヘイズ・サイクルは、ルーズベルトより1つ前のサイクルで、工業化を拡大した時期に当たります。この時、中西部の特に「ラストベルト」といわれるエリアが発展しました。この地域の炭鉱や製鉄所の労働者の職が、レーガン・サイクルの下で根こそぎ奪われていったのです。このレーガン・サイクルは2010年代には、大きな矛盾を露呈していました。産業の空洞化が著しく、このヘイズ・サイクルの時代に取り残された人々が、トランプに望みを託したのです。このように、レーガン・サイクルの矛盾をうまく利用してのし上がったのが、トランプという人物です。
●2020年代は2つのサイクルの停滞期が重なる危機の時代
この2つのサイクルを図で表すと、スライドのようになっています。
制度サイクルは、80年で1周です。対して、社会経済サイクルは50年で1周です。制度サイクルに関しては、フロンティア時代、工業化時代、テクノクラシー時代とあり、それぞれ青の弧を描くような形が3つ描かれています。そして、社会経済サイクルがワシントン時代、ジャクソン時代、ヘイズ時代、ルーズベルト時代、レーガン時代とあって、黄色の弧で表されています。
この図の中で特徴的なのが、2020年代ですね。20...