『太平記』に学ぶ激動期の生き方
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在野草莽の楠木正成と後醍醐天皇の関係が導く倒幕の論理
『太平記』に学ぶ激動期の生き方(4)『孟子』の思想が与えた影響
兵藤裕己(学習院大学名誉教授)
後醍醐天皇の鎮魂の物語と源平交代史が折り重なった『太平記』。さらには、物語に組み込まれた『孟子』の思想が、この書を濃密に色づけていくことになる。江戸時代、はては幕末から明治にかけても大きく影響することになった『孟子』の思想とは、どういったものだったのか。(全6話中第4話)
※インタビュアー:川上達史(テンミニッツTV編集長)
時間:13分19秒
収録日:2020年8月26日
追加日:2020年11月22日
≪全文≫

●『孟子』の思想に強い影響を受ける『太平記』


―― 今のお話からすると、足利氏がなぜ将軍になったのかというエクスキューズのためでしょう、序文からしても『平家物語』は無常観が説かれますが、『太平記』は儒教的というか、孟子の革命思想「悪いものは天によって払われる」に近いものがあるということですね。

兵藤 そうですね。『平家物語』序文「祇園精舎の鐘の声……」では、異朝と本朝の先例が挙げられています。

「遠く異朝をとぶらへば、秦の趙高、漢の王莽、梁の朱忌、唐の祿山」。そして、「近く本朝をうかがふに、承平の將門、天慶の純友、康和の義親、平治の信賴」。これらの8人の先例は全て、朝廷に反逆して滅んだ悪臣です。

―― そうですね。

兵藤 ところが『太平記』の場合は、「もしその(帝王としての)徳欠くるときは、位ありといえども持たず。いわゆる、(中国の最古の王朝)夏の桀(王)は、南巣に走り(南巣の戦いに敗れて逃げ)、殷の(王朝最後の暴君である)紂(王)は、牧野に敗る(牧野の戦いで州の国に敗れて殺された)。」

「その道(臣下としての道)違うときは、威ありと雖も久しく保たず(威力があってもその威力を久しく維持することはできない)。かつて聞く。趙高(秦の始皇帝に仕えて、始皇帝の王子を殺害し、やりたい放題を行った極悪人)は咸陽に死し、禄山(唐の玄宗皇帝に反逆した安禄山のこと)は鳳翔に亡ぶ(滅亡した)と。」

 これは要するに、後半は悪臣が滅んだ例だけれども、前半は悪王が滅んだ例です。ですが、日本は万世一系を謳っているので、悪王が滅んだ例を挙げるのはおかしいのです。

―― 確かに。あまりこういう例は見ませんね。

兵藤 これは、『孟子』の思想がこの時代に流行してしまって、(『太平記』に)入ってきているのです。


●「貴戚の卿」として足利尊氏に担がれた光明天皇


兵藤 『孟子』の一節に、国王に大過(大きな過ち)があって、臣下がたびたび諫めても聞かないようであれば、「貴戚の卿」、つまり同姓の王族に「位を易ふ」とあります。これは『孟子』の「貴戚の卿」という有名な思想です。

 (足利)尊氏は、まさか自分が天皇になろうなどとは思っていません。自分が政治をやっていくうえで都合のいい天皇を持ってこられればい...

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