『太平記』に学ぶ激動期の生き方
この講義シリーズは第2話まで
登録不要無料視聴できます!
▶ 第1話を無料視聴する
閉じる
この講義の続きはもちろん、
5,000本以上の動画を好きなだけ見られる。
スキマ時間に“一流の教養”が身につく
まずは72時間¥0で体験
楠木正成や菅原道真の末路から分かる、根付かない能力主義
『太平記』に学ぶ激動期の生き方(6)後世に与えた影響
兵藤裕己(学習院大学名誉教授)
能力主義によって台頭してきた楠木正成だが、彼も結局は討ち死にしてしまった。しかし、この時代に後醍醐天皇がめざした「天皇と民が直接結びつく」という考えが、のちの明治以降の日本の原型となっていく。(全6話中第6話)
※インタビュアー:川上達史(テンミニッツTV編集長)
時間:10分54秒
収録日:2020年8月26日
追加日:2020年12月6日
≪全文≫

●「二条河原の落書」が意味するもの


兵藤 実際、楠木正成も名和長年も、建武の新政下では非常に高いポストに就きます。これが古くからの貴族には、不満で仕方がないわけですよ。

―― そうでしょうね。

兵藤 「二条河原の落書」を聞いたことはありますか。「二条河原の落書」は、後醍醐天皇の政治がいかにひどかったかということの証拠として、よく高校の教科書に載せられています。ですが、あれは嘘でしょう。

―― 嘘ですか。

兵藤 あれは、後醍醐によって既得権を奪われた貴族がその腹いせに後醍醐の悪口を書いた。そうとしか考えられない。

―― なるほど。確かにそう考えられますね。貴族の立場からすれば、氏素性も分からないような怪しい者が自分たちの上司になるのを許せるかという……

兵藤 まして、自分たちの伝統的な仕事をどんどん奪っていった。これは許しがたいことです。

―― その人たちの立場からすると、嫌な存在というか、憎悪を覚える対象でしょうね。


●なぜ日本で能力主義が根付かなかったのか


兵藤 日本には、そのような能力主義があまり根付きませんでした。例えば、日本は平安時代、中国の律令制を取り入れて、科挙を行っていたことがあります。中国の宋代では、すごく優秀な人、例えば百姓の親分の頭が非常に良くて出世した例は、全然珍しくありません。

―― そうですね。だからこそ、みな必死で勉強するというエピソードがあります。

兵藤 ちなみに、日本でそうしたことを経て出世したけれども、失敗した最も有名な人は菅原道真です。菅原道真は下級官吏で、いわゆる科挙のようなことを経て大成功し、どんどん出世して、なんと右大臣までなりました。当然、大臣のポストを独占していた藤原氏にとっては許しがたいことです。ですから大宰府に流罪になってしまう。それで怨霊になるという話になるわけです。

 道真事件以後、日本の歴史において科挙のようなものを経て、あそこまで出世した人はいません。道真の事件で、いわゆる科挙は日本の国に合っていない、あれをやってしまうと日本の国は混乱して身分の秩序が壊されてしまう、とさんざん懲りたのでしょう。

 道真が京都政界を追い出されて以降は、非常に保守的な王朝政治が続きます。家柄を重視する政治になっていく。それが崩れてくるのが頼朝の鎌倉幕府でしょうけどね。

―― そうですね。また新しい勢力...

スキマ時間でも、ながら学びでも
第一人者による講義を1話10分でお届け
さっそく始めてみる
「芸術と文化」でまず見るべき講義シリーズ
万葉集の秘密~日本文化と中国文化(1)万葉集の歌と中国の影響
『万葉集』はいかなる歌集か…日本のルーツと中国の影響
上野誠
クラシックで学ぶ世界史(1)時代を映す音楽とキリスト教
音楽はなぜ時代を映し出すのか?…音楽と人の歴史の関係
片山杜秀
数学と音楽の不思議な関係(1)だれもがみんな数学者で音楽家
世界は音楽と数学であふれている…歴史が物語る密接な関係
中島さち子
なぜ働いていると本が読めなくなるのか問答(1)読書と教養からみた日本の近現代史
『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』で追う近現代史
三宅香帆
ショパンの音楽とポーランド(1)ショパンの生涯
ショパン…ピアノのことを知り尽くした作曲家の波乱の人生
江崎昌子
ピアノでたどる西洋音楽史(1)ヴィヴァルディとバッハ
ピアノの歴史は江戸時代に始まった
野本由紀夫

人気の講義ランキングTOP10
内側から見たアメリカと日本(6)日本企業の敗因は二つのオウンゴール
日本企業が世界のビジネスに乗り遅れた要因はオウンゴール
島田晴雄
歴史の探り方、活かし方(1)歴史小説と史料探索の基本
日本は素晴らしい歴史史料の宝庫…よい史料の見つけ方とは
中村彰彦
エネルギーと医学から考える空海が拓く未来(5)『秘蔵宝鑰』が示す非二元論的世界
雄大で雄渾な生命の全体像…その中で点滅する個々の生命
鎌田東二
習近平―その政治の「核心」とは何か?(1)習近平政権の特徴
習近平への権力集中…習近平思想と中国の夢と強国強軍
小原雅博
熟睡できる環境・習慣とは(1)熟睡のための条件と認知行動療法
熟睡のために――認知行動療法とポジティブ・ルーティーン
西野精治
何回説明しても伝わらない問題と認知科学(1)「スキーマ」問題と認知の仕組み
なぜ「何回説明しても伝わらない」のか?鍵は認知の仕組み
今井むつみ
習近平中国の真実…米中関係・台湾問題(7)不動産暴落と企業倒産の内実
不動産暴落、大企業倒産危機…中国経済の苦境の実態とは?
垂秀夫
経験学習を促すリーダーシップ(1)経験学習の基本
成長を促す「3つの経験」とは?経験学習の基本を学ぶ
松尾睦
古代中国の「日常史」(1)日常史研究とは何か
『古代中国の24時間』英雄だけでなく無名の民に注目!
柿沼陽平
戦国武将の経済学(1)織田信長の経済政策
織田信長の経済政策…楽市楽座だけではない資金源とは?
小和田哲男