『太平記』に学ぶ激動期の生き方
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楠木正成や菅原道真の末路から分かる、根付かない能力主義
『太平記』に学ぶ激動期の生き方(6)後世に与えた影響
兵藤裕己(学習院大学名誉教授)
能力主義によって台頭してきた楠木正成だが、彼も結局は討ち死にしてしまった。しかし、この時代に後醍醐天皇がめざした「天皇と民が直接結びつく」という考えが、のちの明治以降の日本の原型となっていく。(全6話中第6話)
※インタビュアー:川上達史(テンミニッツTV編集長)
時間:10分54秒
収録日:2020年8月26日
追加日:2020年12月6日
≪全文≫

●「二条河原の落書」が意味するもの


兵藤 実際、楠木正成も名和長年も、建武の新政下では非常に高いポストに就きます。これが古くからの貴族には、不満で仕方がないわけですよ。

―― そうでしょうね。

兵藤 「二条河原の落書」を聞いたことはありますか。「二条河原の落書」は、後醍醐天皇の政治がいかにひどかったかということの証拠として、よく高校の教科書に載せられています。ですが、あれは嘘でしょう。

―― 嘘ですか。

兵藤 あれは、後醍醐によって既得権を奪われた貴族がその腹いせに後醍醐の悪口を書いた。そうとしか考えられない。

―― なるほど。確かにそう考えられますね。貴族の立場からすれば、氏素性も分からないような怪しい者が自分たちの上司になるのを許せるかという……

兵藤 まして、自分たちの伝統的な仕事をどんどん奪っていった。これは許しがたいことです。

―― その人たちの立場からすると、嫌な存在というか、憎悪を覚える対象でしょうね。


●なぜ日本で能力主義が根付かなかったのか


兵藤 日本には、そのような能力主義があまり根付きませんでした。例えば、日本は平安時代、中国の律令制を取り入れて、科挙を行っていたことがあります。中国の宋代では、すごく優秀な人、例えば百姓の親分の頭が非常に良くて出世した例は、全然珍しくありません。

―― そうですね。だからこそ、みな必死で勉強するというエピソードがあります。

兵藤 ちなみに、日本でそうしたことを経て出世したけれども、失敗した最も有名な人は菅原道真です。菅原道真は下級官吏で、いわゆる科挙のようなことを経て大成功し、どんどん出世して、なんと右大臣までなりました。当然、大臣のポストを独占していた藤原氏にとっては許しがたいことです。ですから大宰府に流罪になってしまう。それで怨霊になるという話になるわけです。

 道真事件以後、日本の歴史において科挙のようなものを経て、あそこまで出世した人はいません。道真の事件で、いわゆる科挙は日本の国に合っていない、あれをやってしまうと日本の国は混乱して身分の秩序が壊されてしまう、とさんざん懲りたのでしょう。

 道真が京都政界を追い出されて以降は、非常に保守的な王朝政治が続きます。家柄を重視する政治になっていく。それが崩れてくるのが頼朝の鎌倉幕府でしょうけどね。

―― そうですね。また新しい勢力...

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