『太平記』に学ぶ激動期の生き方
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建武の新政と千種忠顕、文観、阿野廉子らは本当に悪か?
『太平記』に学ぶ激動期の生き方(3)2つの評価が交差する「建武の新政」
兵藤裕己(学習院大学名誉教授)
元の記述に足利政権が改訂の筆を入れたために、複雑な物語となった『太平記』。具体的に、どのような人物についてどのような描き方をされているのだろうか。それを読み取ることで、さらに『太平記』の物語の特長が浮かび上がり、この書物の面白さにつながっていく。(全6話中第3話)
※インタビュアー:川上達史(テンミニッツTV編集長)
時間:11分38秒
収録日:2020年8月26日
追加日:2020年11月15日
≪全文≫

●後醍醐天皇の「建武の新政」を大批判


 『太平記』第十二巻は「建武の新政」です。第十巻で新田義貞によって鎌倉幕府が丸焼けになり、そして第十二巻で後醍醐が京都に帰ってきて、建武の新政が開始されます。この建武の新政を倒したのは、足利です。

 建武の新政が『太平記』でどのように書かれると思いますか。当然、非常に悪く書かれています。

―― そうですね。

兵藤 元の『太平記』には、そんなものはあったはずがありません。後醍醐の鎮魂の物語ですから。

 ところが、今ある『太平記』第十二巻「建武の新政」では、まず後醍醐が大内裏建設を企てたことが批判されます。内裏とは例えば、京都御所にある紫宸殿や清涼殿などです。大内裏とは要するに、今でいうと「霞ヶ関」です。

―― 官庁街も含めた政界の場ですね。

兵藤 そうです。太政官八省全てを一か所に集めるのです。

 平安京には、大内裏はきちんとありました。ところが、その後の王朝社会では、大内裏という大げさなものは必要なくなり、内裏だけで十分だとなります。

―― 御所の場所も移ったという話がありますね。

兵藤 大内裏は、とっくの昔に滅びたのです。

 ところが、後醍醐が大内裏をつくりたいと言いだします。立派な官庁街を整備したい。要するに、後醍醐は中央集権的な政治を取り戻したいのです。

 今まで権力を握っていたのは、藤原氏や比叡山延暦寺などの僧侶、あるいは院政をしいた上皇と、さまざまでした。そのように、さまざまな属性の人物が各所で政治を握るのではなく、天皇の皇居周辺に大内裏、つまり霞ヶ関をつくり、そこで政治を行うといった中央集権的な体制をつくりたい。

 それを行おうとしたことが、かなり批判されてしまいます。「戦争が終わって、みなが疲弊しているときに、大がかりな公共事業を行うなんて!」と、まず批判される。

 また第十二巻で批判されるのは、千種忠顕という後醍醐の側近です。彼は、後醍醐と一緒に隠岐にまで行って、幕府を滅ぼす戦争のときには山陰道から攻め上ってくる天皇軍の大将になりました。その人物の建武政権下での振る舞いがかなり批判されます。驕り高ぶって、遊んでばかりいる、といったように。

 もう1人、後醍醐天皇と楠木正成とを結びつけたと思われる文観という僧がいます。その文観については「外...

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