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ユーラシアの西と東で違いを見せる「独裁」のすがた

独裁の世界史~ソ連編(4)スターリンの負の遺産

本村凌二
東京大学名誉教授/文学博士
情報・テキスト
スターリンやヒトラーのように過激な独裁はその後、中国の文化大革命やカンボジアのポル・ポト政権に引き継がれた感も否めない。そのような独裁を生む背景にはどのようなものがあるのだろうか。話はユーラシアの東西での違いについて進んでいく。(全4話中第4話)
※インタビュアー:川上達史(テンミニッツTV編集長)
時間:10:30
収録日:2020/01/30
追加日:2021/03/05
タグ:
≪全文≫

●スターリンの粛清は劣等感が原因だったのか


―― 一説には、スターリンが実は意外に背が低かったり、天然痘に冒されたためにかなりのあばた面で、本人が劣等感を持っていたと言われます。また、革命から上がってくる過程でもいろいろ後ろめたいことがあったと言われ、どちらかというと劣等感を持ちやすいタイプの人だったのだろうという感じも受けます。

 劣等感が悪いほうに出てしまったということかなとも思いますが、そうした粛清のほうに進んでしまう例というのは、歴史上は比較的ありますよね。

本村 もちろんそれは前近代にはありますけれども、やはり近代・現代になってからのことですから、やはり非常に異常だという気がします。

―― あの感覚は、ヒトラーもそうですし、スターリンもそうですけど、日本人ではあまり考えられません。

本村 そうですよね。日本人にはないし、ヨーロッパの中でも少なくとも前近代にはあるけれども、近代、あるいは特に第一次世界大戦後が現代とよく言われますが、そういう中で起こったことだから異常な気がします。

―― そうですね。ほんとにあの時代はソ連もそうだし、ドイツもそうでした。その後、第二次世界大戦以後になって中国の文化大革命やカンボジアのポル・ポト政権など、およそ身の毛もよだつような虐殺がどんどん展開されるようになります。


●ユーラシアの西と東で「独裁」は大きく違う


―― この流れは一種、共産党や共産主義という制度の宿命であるのか、それとも例えば「スターリン主義」的なものの遺産なのか。そのあたりは、どのようにお考えになりますか。

本村 一つには、アジアの東側に行けば行くほど皇帝や王権というものが強くなるので、そのような中で主義にかかわらず起こるのが独裁だという気がします。

 比較すると面白いのは、権力者や為政者たちが、ユーラシアの西側では表に顔を出すことです。例えば、ローマ皇帝も円形闘技場(コロッセオ、コロッセウム)に出てきて、ずっと貴賓席で見ていた。その姿をまた観衆が見ているのが常でした。

 ところが日本の場合、天皇はもちろんのこと、将軍が民衆の前に出て行くということさえ、おそらく考えられないようなことだったと思います。

―― そうですね。

本村 明治時代になってからも天皇は表立っては出てこないわけですし、昭和天皇も戦前まではそうだった。それが戦後に「現人神」であることを否定して、人前に出てくるようになったのが大きな流れです。西側の「権力者が表に出て行くことが当たり前の社会」と違って、東側は中国をはじめ、みんなそれがないわけですよね。

 自分が表立って見られているわけではないから、かえって独裁者がやりやすい面もある。ロシア(ソ連)の場合は、ヨーロッパに近いところもありますから、革命の中ではそれなりに表立って出てきたところもあるとは思いますが、ただ、共産主義の産物というよりも、むしろ私はユーラシアの西と東の大きな違いではないかと思うのです。

―― 政治のあり方の違いというところですね。ロシアも、いわゆる西ヨーロッパに比べると東的な要素があるということですね。

本村 あるのだと思います。

―― 確かにそうですね。ローマ皇帝もかなりギリシャ正教会と結びついていたので、皇帝が神聖だという観念がけっこう最後まで残っていが国家だと思います。そういう伝統が、逆に回ってしまうと独裁を生みかねないというところですね。

本村 そうです。


●フルシチョフの冗談が示す、常識だった独裁政


―― そうなると、例えば今のロシアや中国もそうですけれども、一種独裁的な国家であったソ連や中華人民共和国は、どう見ればいいのでしょう。中華人民共和国では、まだ体制そのものはずっと続いていますし、ロシアも一時期民主化の雰囲気がありましたが、プーチンが政権について以来、比較的そのような体制となっています。ああいう国々は、民主政・共和政・独裁政というくくりでいった場合に、どういう循環を取り得るのでしょうか。

本村 プーチン政権では、一旦社会主義的なことを否定したけれども、どこかで結局独裁政を許している。むしろ、民衆にとってそのほうがやりやすく、独裁者を許すところがどこかにあるのではないかと思います。

 ほんとの話かどうかは知リませんが、ニキータ・フルシチョフが議会で演説してスターリン批判を始めたときに、議場から罵声が飛ぶわけですよ。それまではスターリンに罵声を飛ばすなどということはできなかったですから、少し自由な雰囲気が出てきた頃です。

―― そうでしょうね。

本村 その時、フルシチョフに罵声を飛ばして、馬鹿者呼ばわりした人がいた。ロシア社会だからということがあるのでしょうが、フルシチョフは「そいつを捕まえて死刑にしろ」と言ったのだそうです。つい...
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