●スターリンの粛清は劣等感が原因だったのか
―― 一説には、スターリンが実は意外に背が低かったり、天然痘に冒されたためにかなりのあばた面で、本人が劣等感を持っていたと言われます。また、革命から上がってくる過程でもいろいろ後ろめたいことがあったと言われ、どちらかというと劣等感を持ちやすいタイプの人だったのだろうという感じも受けます。
劣等感が悪いほうに出てしまったということかなとも思いますが、そうした粛清のほうに進んでしまう例というのは、歴史上は比較的ありますよね。
本村 もちろんそれは前近代にはありますけれども、やはり近代・現代になってからのことですから、やはり非常に異常だという気がします。
―― あの感覚は、ヒトラーもそうですし、スターリンもそうですけど、日本人ではあまり考えられません。
本村 そうですよね。日本人にはないし、ヨーロッパの中でも少なくとも前近代にはあるけれども、近代、あるいは特に第一次世界大戦後が現代とよく言われますが、そういう中で起こったことだから異常な気がします。
―― そうですね。ほんとにあの時代はソ連もそうだし、ドイツもそうでした。その後、第二次世界大戦以後になって中国の文化大革命やカンボジアのポル・ポト政権など、およそ身の毛もよだつような虐殺がどんどん展開されるようになります。
●ユーラシアの西と東で「独裁」は大きく違う
―― この流れは一種、共産党や共産主義という制度の宿命であるのか、それとも例えば「スターリン主義」的なものの遺産なのか。そのあたりは、どのようにお考えになりますか。
本村 一つには、アジアの東側に行けば行くほど皇帝や王権というものが強くなるので、そのような中で主義にかかわらず起こるのが独裁だという気がします。
比較すると面白いのは、権力者や為政者たちが、ユーラシアの西側では表に顔を出すことです。例えば、ローマ皇帝も円形闘技場(コロッセオ、コロッセウム)に出てきて、ずっと貴賓席で見ていた。その姿をまた観衆が見ているのが常でした。
ところが日本の場合、天皇はもちろんのこと、将軍が民衆の前に出て行くということさえ、おそらく考えられないようなことだったと思います。
―― そうですね。
本村 明治時代になってからも天皇は表立っては出てこないわけですし、昭和天皇も戦前まではそうだった。それが戦後に「...