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独ソ不可侵条約はヒトラーに戦争をけしかけるためだった

第二次世界大戦とソ連の真実(4)独ソ不可侵条約とスターリンの誤算

福井義高
青山学院大学 大学院国際マネジメント研究科 教授
概要・テキスト
宥和政策を取るイギリスなどの帝国主義諸国に対する不信感を強めていたソ連は、ドイツを利用して両陣営の戦いを煽っていく。その決定的なきっかけとなったのは、1939年にナチス=ドイツとの間で結ばれた独ソ不可侵条約だった。スターリン体制の成立過程における戦略的な側面に着目することで、多角的な歴史認識が可能となる。(全4話中第4話)
※インタビュアー:川上達史(テンミニッツTV編集長)
時間:10:55
収録日:2021/12/06
追加日:2022/04/15
≪全文≫

●独ソ不可侵条約の締結で独英仏の対立を煽る


―― では続いて、ヒトラーをけしかけるスターリンです。

福井 1939年9月1日にドイツがポーランドに攻め入って、その結果、イギリスとフランスがドイツに宣戦布告し、これで第二次世界大戦が始まります。その直後の9月7日、コミンテルン書記長のゲオルギ・ディミトロフが、非常に詳細な日記を残していました。そこに残っている発言です。スターリンによると、「この戦争は2つの資本主義国家群(植民地、原料などに関して貧しいグループと豊かなグループ)」の間で起こっています。日本でも「持たざる国」と「持てる国」と言ったりします。

―― アウタルキーなど、いろいろな言い方がありますね。

福井 はい。要は日独対英米仏です。その間で「世界再分割、世界支配をめぐり行われている」と言っています。「我々は、両陣営が激しく戦い、お互い弱めあうことに異存はない」です。そして、ドイツの手で最大の帝国主義国である「英国の地位がぐらつくのは、悪い話ではない」のです。「ヒトラーは、自らは気付かず望みもしないのに、資本主義体制をぶち壊し、掘り崩して」くれているのです。

 さらにずたずたに彼らが引き裂きあうように、けしかけなければいけません。そのため、独ソ不可侵条約は、けしかけるための条約だったということです。もし、ドイツがソ連と不可侵条約を結ぶことができなかったら、英仏に屈服せざるを得ない状況でもありました。

―― そういう状況だったのですか。

福井 そうです。ですからドイツは非常に困っていたのです。英仏がというより、イギリスが非常に強硬であって、ドイツは引くに引けない状況になっていました。

―― 当然ソ連との不可侵条約があるからこそ、ポーランドに侵攻できたともいえますね。

福井 そうです。もしも英仏がソ連と組んだら、もう完全に包囲されます。

―― ドイツとしてはもう打つ手がなくなってしまうということですね。

福井 そうです。スターリンはさすがで、英仏とも交渉していました。英仏とドイツを天秤にかけていたともいえます。

―― なるほど。先ほどミュンヘン会談の話もありましたが、スターリンの立場から見ると、ヒトラー自身が拡張政策で周辺国を併合していく動きの中で、英仏とも交渉し、ドイツとも交渉したということですね。

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