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アフガンで起こった現代の「風声鶴唳」、その真相に迫る

不安定化したアフガン、ウイグル、中国(1)アメリカ軍の撤退とアフガンの混迷

山内昌之
東京大学名誉教授/歴史学者/武蔵野大学国際総合研究所客員教授
概要・テキスト
20年にわたる駐留を終え、2021年8月にアメリカ軍がアフガニスタンから撤退した。それをきっかけとして、武装勢力タリバンがあっという間に首都カーブルを制圧し、政権を復活させた。これまでアメリカを始めとする国際社会から多くの支援と訓練を受けてきたはずのアフガニスタン政府は、なぜこんなに簡単に負けてしまったのか。(全4話中第1話)
時間:12:00
収録日:2021/11/12
追加日:2021/12/18
カテゴリー:
≪全文≫

●アフガニスタンで起こった世界屈指の「風声鶴唳」


 皆さん、こんにちは。

 中東について、しばらく触れていなかったので、今日は最新の中東情勢の一つとして、日本でも大変馴染みが深くなった、アフガニスタンの情勢についてお話ししたいと思います。

 ところで、古(いにしえ)の中国で、4世紀の383年に「ヒ水の戦い」が行われます。これは有名な前秦の苻堅が大敗北を喫した戦いです。苻堅が敗北を喫した理由は、「風声鶴唳(ふうせいかくれい)」です。すなわち、風の音に怯え、そして鳥の鳴き声に驚き騒いで、軍隊が敗走したことにあります。それが「風声鶴唳」という言葉のもとになっています。

 わが国でも似たエピソードがあります。1180年に平家の平維盛が、源頼朝が率いる東北の軍勢を迎え撃って、富士川を挟んで戦おうとした時、富士川に生息していた水鳥がバタバタっと飛び立ち、水鳥の音に怯えて、平家の軍隊が敗走するという事件がありました。

 これは歴史だけのことではありません。現実に、私たちの生きているこの時代にもおいても、平和な日本では予想、予測することさえできないことが先般に起きました。どこで起きたかというと、アフガニスタンです。ご承知のように2021年8月に、バイデン政権が、米軍をアフガニスタンから撤退させるという意思を表明して、アフガニスタンの国防軍は、直ちに解体、壊滅しました。壊滅したといっても、自ら敗走、解体してしまって、ともかく兵士が四散したので、これほど風声鶴唳なことはありません。あるいは富士川の水音にも比すべきことです。ただし、音さえ鳴っていません。鳥の鳴き声さえ無く、水鳥も音を出していません。そうして、急にバタバタッと、世界でも有数の、最新鋭のアメリカ製武器で武装された軍隊が雲散霧消したのは、驚くべきことです。世界屈指の風声鶴唳ではないかと思います。

 もう一つ驚くことは、首都カーブルで起こったことです。よく「カブール」といいますが、正しくは「カーブル」です。首都カーブルで起こった、イスラム原理主義勢力タリバンへの恐れが何をもたらしたかというと、当時のアフガニスタン大統領のアシュラフ・ガニ大統領が国外に直ちに逃亡するという事件が起こりました。まさに中国史風にいうと、「遁走(とんそう)」ということがぴったりくるかと思います。

 ガニ大統領が国民を見捨てて、とにかく真っ先に...
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