●バイデン政権の発足と大規模経済社会政策
アメリカのことから入りたいと思います。アメリカでジョー・バイデン氏が大統領に就任する直前の2021年1月6日に、ドナルド・トランプ氏が国会議事堂の前でアジって、何千人という彼の信奉者がいた中で、「今、議会の中では、バイデンが選挙を盗んだので、それを排撃する運動を一所懸命やっているから、おまえらも行け」と言って、トランプ氏の信奉者たちが議事堂の中になだれ込みました。世界中がそれを見ていて、アメリカはもう民主主義ではないのではないかと言い出しました。
そういうことがあったので、結局、バイデン氏の就任式の時には一般参加者なしで、武装部隊の厳戒態勢の中で行なわれました。バイデン氏も懸命に、「アメリカの国民は団結してください」と言っていて、アメリカ建国以来の異常な就任式でした。
バイデン氏の最大の仕事はコロナ対策です。トランプ氏は専門家を全然相手にしませんでしたが、バイデン氏は就任前から専門家チームを集めて、しっかりやっていました。救済のための大規模な現金給付と、防疫医療体制強化、そしてワクチン大規模接種から始まりました。
最初に「アメリカン・レスキュー・プラン」と言う大型経済対策法案として、1.9兆ドル、日本円で220兆円ぐらいを1年間でどっと出すと言いました。半分ぐらいが、新型コロナウイルスの被害を受けた恵まれない人たちへの現金給付です。3カ月かかっても10万円配れない日本政府と違って、2週間で配りました。
そのあと、「米国雇用計画」と「米国家族計画」それぞれに約2兆ドル(日本円で約200兆円)出したので、全部合わせると6~7兆ドルになり、トランプ氏もその前に、数兆円出していたので、約10兆ドルの財政支出になります。これをバイデン氏は「グリーン・ニューディール」と言いました。ニューディールと言えばフランクリン・ルーズベルトです。バイデン氏は彼をすごく尊敬しているので、これを「グリーン・ニューディール」と言っています。
●対中国を意識した雇用計画と家族計画
こんなことを一所懸命やっていたので、バイデン氏は施政方針演説を普通のタイミングでできませんでした。100日たってようやく国会でやりましたが、コロナなので聞いている人はわずかです。たくさんのことを言っているので省略しますが、習近平氏のことを「専制主義者」と呼んでいて、その専制主義者から、「民主主義はコンセンサスを得るのに時間がかかりすぎて、21世紀にわれわれの中国型の民主主義、専制主義には対抗できない」と言われたことに、バイデン氏は非常に頭にきていました。そして、「いろいろな計画は中国に勝つためである。最後にわれわれの憲法は“We the People”で始まる。われわれこそが、人民こそが政府だ。専制主義国家が未来を勝ち取ることはできない。われわれが勝ち取るのだ。未来はアメリカにある」と言いました。これは名演説だと思います。私はこれをずっと読んで、“of the people, by the people, for the people”で有名なエイブラハム・リンカーンのゲティスバーグ演説に少し似ている感じがしました。
このレスキュー・パッケージをドーンと約200兆円やりました。下院は、民主党が8席ギリギリ多く持っているので、単独でもできます。上院は、民主党と共和党が50―50ですが、ハリス氏が1票投じられるので、強引なことをやろうと思えば単独で通せます。「緊急なので通す」と言って、バイデン氏は通しました。
そのあと、「アメリカ雇用計画」です。これは何かというと、雇用を増やすことは、実はインフラ整備と関係しています。公共の施設がもうボロボロになっているし、半導体の供給網やバイオ、AIなどはまだできていないので、そこへ約200兆円を投入して、8年間かけてつくります。雇用と称していますが、インフラをしっかりさせると、良い雇用機会をつくれるという、競争力を強化するためのプランです。
もう一つ、「アメリカ家族計画」を出しています。これは2021年4月に説明していて、良い教育を受ける権利を人々に与えるための施策です。チャイルド・ケアをうんと安くできるようにする、貧困の子どもに税額控除するなど、いろいろあります。「家族」と言っていますが、彼の狙いは、全て中国に勝つためです。要するに、アメリカの労働力は優れた人もいますが、相当酷い人もたくさんいるので、その底上げをしようということです。そうすると、経済力そのものがつくという考えです。