●ロシア周辺の地政学を見る
小原 今回のウクライナ戦争を始めるにあたって、プーチンは「NATOはわれわれにとって大変な脅威である。NATOがわれわれのすぐそばにまで迫ってきて軍事インフラを配置し、まさにロシアを攻撃しようとしている。ウクライナは、まさにナチ政権だ」と演説を行いました。
そういうわけで、その背後でこの問題をどう解釈するかは双方違うのですが、そこにはそうした歴史があるのです。
そして、この地図にあるように、地政学もこれに絡んでくるわけです。
―― これは、ロシアに大きな三角がありますが、この地図はどう見ればいいですか。
小原 はい。この三角は、今のロシアとの関係がいい国です。今回キエフに侵攻するにあたっては、北のほうから軍を出しましたが、この方角にあるのがベラルーシという国です。同盟関係にある国ですが、そうした国々(三角で囲われている国々)。中央アジアの辺りにもあります。これに対して、赤丸がついているのは今まさにウクライナで起きていることと同じで、西側を向いた国です。その中でジョージアは、昔はグルジアといわれていました。
―― トルコの北にある国ですね。
小原 そうです。この国の西北部でロシアと接するところにアブハジア、東南部に南オセチアという地域があります。どちらも独立願望が強いため中央政府との対立があり、紛争が起こっていました。そこに戦争が起きるわけですね。紛争が拡大して、そこにロシアが平和維持軍という形で介入していくわけですが、戦争や紛争が起きている地域はNATOへの加盟が非常に難しいということがあります。ジョージアもウクライナもNATO加盟申請をしていましたが、ジョージアの場合はこのような戦争がありました。また、ウクライナの場合はロシアとの関係もあり、2014年にはクリミア半島併合がありました。さらに、東部でも紛争が起きている。そのようなことで、事実上、今すぐに加盟はできないという難しさがあるわけです。
ただ、この2国については、将来の加盟に合意するという決定がNATO側からなされています。それが宙ぶらりんになっている中で、今回の全面侵攻が起きたということです。
●緊張の高まる三つの地域
小原 それから、ウクライナの下にモルドバという小さい国があり、ヨーロッパで最も貧しい国といわれています。この国のウクライナ国境と接する非常に細長い地域は、「トランスニストリア」と呼ばれています。ここは事実上もう独立したような形で、武装勢力が支配していますが、ロシア軍も1500人ほど駐留しています。
モルドバという国の微妙さは、今後南部の侵攻が進んでオデーサまでくると、すぐそばにトランスニストリアがあり、ロシアの影響力が強いということです。ここはまさにモルドバの領土なのですが、モルドバも実はNATOに入っていません。そのため、モルドバは非常に状況を憂慮し、今やヨーロッパへ逃げていく人も増えています。そうした不安定な地域が、ここにもう一つあるということです。
さらにバルト三国(黄色の丸)です。ここも旧ソビエト連邦の共和国で、ロシア系の住民が非常に多いところです。かつ、旧東欧諸国と違って、この三国はロシアからすれば「ソ連邦の一員であった」ということで許しがたい相手です。そして、ロシアとの国境も接しています。
それから、その上にはフィンランドがあります。ここはもちろん冷戦中も独立国でしたが、第二次大戦の時にソ連との戦争を2回行っています。「フィンランド戦争」といわれるもので、圧倒的な力の差がある中、フィンランドは大変なコストを払いました。「冬戦争」とも呼ばれるように、フィンランドはスキーを使って大軍を苦しめました。結果的には、領土の一部を譲り、かつ賠償金を払うような厳しい歴史を経ています。
冷戦中は中立という形で、ソ連との間を非常に安定的に良好な関係にしようと努めました。その間、西側との関係ももちろん続いていたため、これは「フィンランド化」と呼ばれています。
厳しい見方をすると、西側の国にとってフィンランドという国はソ連に対して屈従的な振る舞いをしている。そういうことに対する揶揄を含めての「フィンランド化」という言葉です。これだけの超大国の隣に存在し、戦争までして領土をもぎ取られたような国にとって、自分たちの安全を守っていくためには、そうした外交をせざるを得なかったのです。
ただ、今回のウクライナの侵攻をもって、ロシアに対して大変な脅威感が高まってきました。侵攻が始まる前と起きてからの世論調査は全く変わってしまいました。「NATOに加盟したい」という賛成派のほうが、反対派を圧倒的にしのぐようになったわけです。
●侵攻の裏にあるロシア的行動原理を知る
小原 何を言...