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日本人の家庭では、妻が夫の声を知らないことも普通だった

『ベラスケスのキリスト』を読み解く(3)幕末明治と霊性文明

執行草舟
実業家/著述家/歌人
概要・テキスト
マルローは「霊性文明は日本しかできないだろう」と述べたという。たしかに、ヨーロッパやアメリカは「言語の文明」であるのに対し、日本は明治初期まで夫婦も親子もほとんど会話をしないほどだった。執行草舟は、祖母に祖父のことを聞いたことがあるが、「話したことないから、わからない。声も知らない」といわれたという。日露戦争で東郷平八郎が発したのも言葉ではなく、右手を左に下げるジェスチャーだけだった。江戸城開城でも、西郷隆盛と勝海舟はほとんど会話をしていない。ある意味では、このような「沈黙の文化」が霊性文明に近いのである。(全13話中第3話)
※インタビュアー:神藏孝之(テンミニッツTV論説主幹)
時間:08:54
収録日:2022/08/02
追加日:2022/09/23
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≪全文≫

●祖母は祖父について「話したことがないからわからない」と言った


執行 霊性文明という言葉は、(イギリスの歴史家アーノルド・)トインビーも言いました。実はすごいのです。今挙げたマルローもそうです。

竹本先生の書いたマルローの本はたくさんありますが、その中にもはっきり出てきます。「霊性文明はたぶん日本しかできないだろう」と。

 日本ができなければ、もうできないということです。

―― すごいことを言っておられますね。

執行 なぜなら、ヨーロッパやアメリカは、「言語の文明」ですから。騒音と物質の文明で、最も成功した国がヨーロッパです。それで今、世界を制覇しているわけです。

 日本はそこでは取り残されてしまいました。しかし、どちらかというと東洋、とくに日本には、霊性に最も合っている文明が、元々はあるのです。(神藏さんは)歴史にも詳しいからわかると思いますが、実は日本は、江戸時代末期や明治初期に霊性文明を達成する寸前だったのです。黒船が来なければ。

―― 達成寸前だったのですね。もう幕末のあたりで、それがある程度。

執行 寸前です。私は歴史を研究して、そう思います。

―― かなりいいところまで行っていた。

執行 「いい」というレベルではありません。偉大な史伝文学である大佛次郎の『天皇の世紀』を読んでも、それを感じます。もう1つ、私がそれを感じるのは、島崎藤村の『夜明け前』です。青山半蔵という、島崎藤村の父が主人公の文学です。 あとは日清戦争日露戦争です。

 ヨーロッパが乗り込んできたので、日本人はヨーロッパかぶれして、霊性文明を少し捨ててしまいました。どういうことかというと、家族が何の会話もせず、親子・夫婦が離婚も何もほとんどなく、世界一安定した家族を維持していたのが、日本です。夫婦の間も親子の間も、世界レベルで言うと会話はゼロです。

―― ほとんど会話をしなくても通じるわけですね。

執行 私の祖母まで事実です。祖父は、私が生まれたときはもう亡くなっていました。でも私は祖父にすごく興味があったので、祖父のことを祖母にいろいろ聞くのですが、(祖母は祖父のことを)まったく知りませんでした。「いやあ、話したことないから、わからない」と言うのです。

―― すごいですね。先生のおじいさんだから相当な人物ですよね。

執行 どんな声をしているか知らないと言うので...
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