『ベラスケスのキリスト』を読み解く
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近世の精髄、中世の精髄、近代の精髄とは何か?
『ベラスケスのキリスト』を読み解く(5)ダンテ『神曲』とミルトン『失楽園』
考察と随想
執行草舟(実業家/著述家/歌人)
『ベラスケスのキリスト』には「騒音と沈黙」「永遠と欲望」「霊と肉」などの対決が書かれている。その対決からウナムーノは、ヨーロッパの本質を紡ぎだした。本書を読めば錬金術やキリスト教、さらには現代科学までわかる。ある種の教科書であり、聖書である。これはダンテの『神曲』や、ジョン・ミルトンの『失楽園』にも通じる。近世の精髄が『失楽園』、中世の精髄が『神曲』、近代の精髄が『ベラスケスのキリスト』なのである。(全13話中第5話)
※インタビュアー:神藏孝之(テンミニッツTV論説主幹)
時間:11分54秒
収録日:2022年8月2日
追加日:2022年10月7日
カテゴリー:
≪全文≫

●なぜ『ベラスケスのキリスト』は「21世紀の『神曲』」なのか


―― 霊性文明の概略はわかりました。実際、本書では、どのように描かれているのでしょう。

執行 先ほど少し触れた、騒音と沈黙の対決がどういうものかが、主として書かれています。沈黙と騒音。永遠と欲望。霊と肉。これらが対立する。ウナムーノは騒音や肉側にいます。現代人ですから。それらとの対決の中から、ヨーロッパの本質とか何かをウナムーノは紡ぎ出していったのです。

 私がウナムーノをなぜ好きかというと、ウナムーノは霊性文明をだんだん自分の中につないでいったからです。一種の実存主義です。ウナムーノが考える「人間の実存とは何か」が、『生の悲劇的感情』というウナムーノの一番の著作に書かれています。『ベラスケスのキリスト』の苦悶の途中で書かれたものが、この本(『生の悲劇的感情』)です。

―― 途中で書かれたものなのですね。

執行 『ベラスケスのキリスト』は、苦しみながら一生涯かかったものを晩年にまとめた詩ですから。

 『ベラスケスのキリスト』は注釈がたくさんあるので、わかりやすくなっていますが、とにかくヨーロッパの歴史がわかっていないとだめです。錬金術、キリスト教、ヨーロッパ神学、哲学、芸術、科学知識、社会学。それらが全部わかっていないと、霊性は普通はわかりません。

 とはいえこれらを全部勉強する人はなかなかいないので、その葛藤の中から生まれてくるものが混合され、この本の中に入っている。だから『ベラスケスのキリスト』の詩を読みながら、苦しみを追体験していると、錬金術とは何なのか、キリスト教は何なのか、さらに私流に言うと現代の科学とは何なのかが、わかるようになりました。

―― ものすごくたくさん注釈を入れてくれたのは、そういうことなんですね。

執行 これは教科書ですから。今のヨーロッパやアメリカ、つまり今の欧米文明をつくりあげたのはキリスト教です。そのキリスト教の、現代版の苦しみが『ベラスケスのキリスト』です。ヨーロッパやアメリカは1回、キリスト教信仰によって科学文明をつくって大成功しました。この本を聖書として読み直せば、それを超えられるのです。

―― そうか、聖書として読み直すんですね。

執行 これは座右の書にしなければだめです。1回読んだ、2回読んだではなく、これを買ったら机の前に一生置いておかなけれ...