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人類の未来を見るうえで一番いけないのは希望である

『ベラスケスのキリスト』を読み解く(8)永遠の命を描いた磔刑図

執行草舟
実業家/著述家/歌人
概要・テキスト
ウナムーノが対話の対象としてベラスケスのキリストを選んだのは、「永遠の命」を描いた唯一のものだったからである。ベラスケスのキリスト磔刑図は、どれだけ見ていても飽きない。これは「永遠」とつながることを意味する。ウナムーノは対話を通じて「新しい創世記」をつくろうとしたのではないか。「新しい創世記」はドイツ哲学者のブロッホの言葉で、ブロッホは真の創世記は「初め」ではなく「終わり」に来ると述べている。人類の未来を見るうえで一番だめなのは「希望」である。「なんとかなる」と思っているかぎり、人類の抱える問題は解決しない。(全13話中第8話)
※インタビュアー:神藏孝之(テンミニッツTV論説主幹)
時間:09:31
収録日:2022/08/02
追加日:2022/10/28
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≪全文≫

●ベラスケスのキリスト像は「永遠の命」を描いた唯一のもの


―― ウナムーノは、なぜベラスケスの描いたキリストと対話することになったのでしょう。

執行 私はキリスト教が好きなので、キリスト教の磔刑図はあらゆるものを研究し、見てきました。そのうちの目ぼしいものは全部、社長室に貼り、家にも飾って、何十年と見てきました。ずっと磔刑図だけを眺めてきた。

 するとわかるのですが、ベラスケスのキリストの像は「永遠の命」を描いた唯一のものなのです。他の画家が描いたものは、ダ・ヴィンチやゴヤなど、どんなに偉大な画家でも表面しか描いていません。永遠の命を描けたのは、私はベラスケスだけだと思います。

 これは「感じるもの」です。ウナムーノもたぶん感じた。プラド美術館の中心として飾ってあるのだから、多くの芸術家が感じたのだと思います。

―― 私も3回見ました。

執行 それだけ深遠なところを描ききったベラスケスの名画だから、その芸術的観点からウナムーノは見たのだと思います。

 ウナムーノは非常に誇り高い人間だから、自分が一生涯かけて対決する相手なのですから、相手もそれなりでないとだめです。やはり現世人類最高のキリスト図と言えるのがベラスケスで、これが第一の理由です。

 また先ほどから何度も言っていますが、ウナムーノは近代人で、ベラスケスは中世末。その魂の対決です。中世と近代が、この絵と対峙していると、完全に対決できるのです。自動的に。絵ができたのが中世末から近世の初めだから、ちょうど歴史的にもいい。だからウナムーノは最初から人類の行く末というか、人類がどうなるのかが、気になっていたのだと思います。それに対してベラスケスが一番答えているのです。

―― 絵の中に込められている魂を見たのですね。

執行 そうだと思います。私もそう感じます。他のキリスト磔刑図と比べると、簡単に言うとオーソドックスで、一番飽きないのです。他のキリスト磔刑図は、最初はいいと思っても、毎日見ていると飽きます。ベラスケスだけは飽きません。

―― 飽きないんですね。

執行 だから「どこ」と言われると困るのです。簡単といえば簡単ですが。

―― でも飽きないというのは、すごいですね。

執行 「飽きない」イコール「永遠につながってる」ということですから。

―― 確かに「飽きない」は永遠につながっています。...
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