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「剣を磨す火花」そして「沈黙」…生命の本質を表わす言葉

『ベラスケスのキリスト』を読み解く(11)キーワードを読み解く〈中〉

執行草舟
実業家
情報・テキスト
「剣を磨(ま)す火花」という言葉は、われわれの生命を表わす根源的な言葉である。また生命の本質は「沈黙」で、これは宇宙の本質が沈黙だからである。現実のわれわれは火花なしで生きているし、言葉もしゃべる。だがわれわれの本質は暗黒の中に生きる愛を目指す火花である、この感覚がわかると神秘思想もわかるようになる。自分の運命を「宇宙的使命」と考え、今を生きていればこそ、人生の苦労を乗り切れる。その裏打ちとなるのが沈黙なのだ。(全13回中第11話)
※インタビュアー:神藏孝之(テンミニッツTV論説主幹)
時間:12:59
収録日:2022/08/02
追加日:2022/11/18
カテゴリー:
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≪全文≫

●「剣を磨す火花」が意味するもの


―― 次に第1部第39節の「沈黙」。ここに神秘思想があるように思います。ウナムーノの考える神秘思想と、われわれの生命の沈黙について教えていただけますか。

執行 その前に先ほどの「剣」の最後にある「剣を磨(ま)す火花」という言葉を解説します。この「剣を磨す火花」が、われわれの生命の本質です。「剣を磨す」は「剣を研ぐ」で、剣を研ぐときに出る火花が、われわれの生命を表す根源的な言葉です。

 これが、神藏さんが先ほど挙げた「その剣で、我々の生命と臍の緒を断たねばならぬ」が出てくる詩の最後に書かれているのです。

―― なるほど。「剣を磨す火花」ですね。

執行 これも言葉として覚えておくと、すごくいいです。

―― ウナムーノの本質の1つですね。

執行 もちろん、そうです。ウナムーノの言葉を、全部、日本語に訳したものですから。

―― でも、先生の言葉と同一ですよね。

執行 それはそうです。武士道ですから。ウナムーノの中心思想も騎士道です。だから武士道や騎士道がわかっている人以外、この本は訳せません。

―― そうですね。

執行 言葉が変わってしまうとイメージが変わりますから。ウナムーノの言いたいことが伝わらない。

―― 「剣を磨す火花」というのは、すごいですね。

執行 すごいです。これが結論として、27節の詩の最後の行に出てくる言葉ですから。それによって39節の「沈黙」という神秘思想がその中から生まれてくるのです。

 先ほど少し言いましたが、生命の本質が「沈黙」なのは、宇宙の本質が「沈黙」だからです。「宇宙と同一化した」と考えたわれわれの生命、宇宙のエネルギーが浸潤した状態としてのわれわれの命は「沈黙」です。

 ところが、実際のわれわれは違います。火花なしで生きているし、言葉もしゃべる。でもわれわれの本質は「暗黒流体の中に生きる、愛を目指す火花」なのだと、わからなければだめなのです。沈黙の中における雄叫び。沈黙の中における愛の実践。沈黙の中における会話。沈黙の中におけるオリンピックや運動でもいい。本当は宇宙の沈黙の中にわれわれは生きているけれど、一瞬の火花として肉体を与えられている数十年の間は、棒高跳びもできる。そういう感覚が、この「沈黙」の持つ感覚です。これがわかってくると神秘思想がわかるようになるのです。

 「十字架の聖ヨハネ」というヨーロッパの神秘思想の代表的な思想家がいます。15世紀ぐらいのスペイン人で、「サン・ファン・デ・ラ・クルス」と言われている人です。彼の言葉で「われわれの命は沈黙の中にある」というものがあります。それが生命の真実で、これをわかれというのが神秘思想の中心です。

 この西洋の神秘思想や東洋の神秘思想が、現代人の苦悩とマッチングし、葛藤すると霊性文明になる。キリストの磔刑は大宗教家の死だけれども、1つの神秘なのです。自分から進んで十字架に架かったのですから。

 ご存じだと思いますが、ローマの総督だったポンティオ・ピラトは、キリストを助けたくてしかたなかった。これが理不尽な十字架だとわかっている。でもユダヤの民衆は「殺せ、殺せ」と叫ぶので、キリストに直に「おまえが『地上の王』などと馬鹿なことを言わなければ助ける」と言うけれど、キリストは「父がそう言うのだから」ということで黙る。一切、答えない。それによって、最終的にはどうしようもなく、ポンティオ・ピラトは法律を執行して、殺すしかなくなる。だから、あえて死んだのです。
 
 これが神秘の始まりです。このキリストをずっと瞑想しながら、どんどん中世で発展してきたヨーロッパ哲学が、神秘思想なのです。その頂点にいる人たちがドイツでは(マイスター・)エックハルト、スペインではサン・ファン・デ・ラ・クルス。この人たちもいろいろな著作を書いています。

 私の生き方の座右の銘は、サン・ファン・デ・ラ・クルスの言葉です。だからヨーロッパ神秘思想の哲学者の言葉が、私の座右の銘です。「おまえの知らぬものに到達するために、おまえの知らぬ道を行かねばならん」という有名な言葉です。私がこれを知ったのは20歳のときで、今もそうです。

―― それも20歳ですか。

執行 ウナムーノと一緒のときです。この言葉を20歳のときに知って、私は今72歳ですが、ずっとそれで生きています。「おまえの知らぬものに到達するために、おまえの知らぬ道を行かねばならぬ」。

 だから私は毎日、人生の記憶が、あまりないのです。毎日毎日死に向かって、初めての自分の運命にぶつかっていくという姿勢で、今日も生きています。

―― なるほど。「知らぬ道」を行っているわけですね。

執行 自分の道、自分の運命、宇宙から与えられる私の運命。かっこいい言葉で言うと、私の宇宙的使命です。宇宙が与...
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