テンミニッツTV|有識者による1話10分のオンライン講義
ログイン 会員登録
テンミニッツTVは、有識者の生の声を10分間で伝える新しい教養動画メディアです。
すでにご登録済みの方は
このエントリーをはてなブックマークに追加

沈黙と瞑想が本当の価値として定着した世界が「霊性文明」

『ベラスケスのキリスト』を読み解く(2)騒音と沈黙

執行草舟
実業家/著述家/歌人
情報・テキスト
フランスの作家で政治家でもあったアンドレ・マルローは「霊性文明の時代に入れなければ人類は滅びる」と50年以上前に予言したという。文明に毒されている現代人は、真の意味でキリスト教を信仰することはできないからである。人類が滅びないためには宗教を超えた存在が必要で、それが霊性文明である。原始キリスト教は「静かな」世界だったのに対し、現代は「饒舌と騒音」の時代である。霊性文明とは沈黙と瞑想の時代で、沈黙と瞑想が本当の価値として定着した時代のことである。(全13話中第2話)
※インタビュアー:神藏孝之(テンミニッツTV論説主幹)
時間:13:44
収録日:2022/08/02
追加日:2022/09/16
≪全文≫
執行 この「霊性文明」という言葉を、私は声を大にして言っています。霊性文明という言葉自体は、元々私が一番尊敬している日本の大学教授の竹本忠雄先生(筑波大学名誉教授、コレージュ・ド・フランス元招待教授)が使っておられ、そこからもらったものです。

 竹本忠雄先生は霊性文明で有名なアンドレ・マルローの親友だった人でもあります。

―― それは、すごいですね。

執行 すごいです。アンドレ・マルローに関する本をたくさん書いていて有名で、著作の半分以上はフランス語です。その竹本先生が、直接マルローから聞いた話です。私もお世話になっている方で、今90歳ですが、ものすごく親交が深いです。

 竹本先生が直接聞いたマルローの言葉が「21世紀は霊性文明の時代になるだろう」です。マルローは50年以上前に予感し、予告していたのです。

―― 予言していたのですね。

執行 あのマルローが、です。ド・ゴール政権で文化大臣を務めた、あのマルローが。

―― あのアンドレ・マルローですね。

執行 『人間の条件』など名著を書いています。私は文学でしか知りませんが。そしてマルローは、霊性文明になれなかった場合、人類は滅びると50年前に言っています。

―― 50年前に「霊性文明に入れなかったら人類は滅びる」と。

執行 21世紀に霊性文明に移行できなかったら、人類は滅びると言っています。もう1人重要な人はカール・グスタフ・ユングという、スイスの精神分析学者です。心理学で私が一番好きな人で、私の文学や心理学研究の中心になった人です。

―― ユングですね。

執行 ユングもそれに近いことを言っています。これが『ベラスケスのキリスト』に一番近いかもしれません。「次の文明はゴッドではなく、霊性の支配する時代となるであろう」と。

 ゴッドではないということは、もうキリスト教の否定です。ただ、否定というと少しおかしくて、正確に言えば、キリスト教は基礎としては必要なのです。だから「キリスト教を超えなければならない」ということです。

 先ほど言ったキリスト教信仰が本当にすごかった時代、中世や原始キリスト教の時代は、私は大好きで研究していますが、あの頃の信仰など、とてもわれわれはできません。だって、十字架にかかるのが、なんともないのですから。

―― すごいです。

執行 もう桁が違います。武士道でもだめです。

―― 先生がよく言われる原始キリスト教は、4キロ四方の小さいエリアで、何の得にもならなくて……。

執行 何にもならない。見つかれば火あぶり。それで300年間、ローマの国教になるまで地下で信仰を続けた。そういう人たちです。約束として信じているのは「死んだら永遠の命とつながれる」ということだけ。それ以外のことは全部捨てる。そして捕まったら火あぶりになるのを承知で300年間、信仰できる人たちです。これは歴史的事実です。

―― 「永遠の命とつながれる」という、ただそれだけで。

執行 つながりたい、というだけ。「キリスト教信仰すればそうなれる」と言われ、信じることができる人たちだったのです。

―― ここがすごいですね。「信じることができる人たち」というのが。

執行 『クォ・ヴァディス』という(ポーランドの小説家ヘンリク・)シェンキェヴィチの偉大な文学がありますが、ああいう作品を読んでも信じられません。われわれ現代人とは人類が違います。われわれはそれだけ汚れたということです。

―― 毒されている。

執行 要は毒された。文明の度合です。毒されたことは、どうしようもない。ウナムーノも自分が毒されているとわかっていました。だからこそキリスト教仏教など、昔の大宗教を超えなければだめだと考えた。超えるにはやはり大宗教家の魂と一生涯対決し、葛藤することが必要なのです。

―― 対決して葛藤しないかぎり、できないのですね。

執行 できません、それ以外は。ユングもそう言っています。ユングが言ったというのは大変なことです。マルローももちろん同じです。マルローの場合、竹本先生が直接聞いています。


●沈黙と瞑想にこそ価値がある


執行 私も霊性文明については昔から言っています。日本では三島由紀夫です。私はいつもいろいろな本に引用していますが、「人間の肉体でそこへ到達できなくても、どうしてそこへ到達できないはずがあろうか」と、『美しい星』という本の最後に三島由紀夫が書いています。これが霊性文明の本質の中の本質です。 私は『葉隠』からここに到達しましたが、同じところに到達する、あるいは読めばできていくのが『ベラスケスのキリスト』なのです。

―― なるほど、先生は『葉隠』、武士道から到達していったのですね。

執行 私は武士道だけです。キリスト教も学校がそう(立教小学校~立教大学)だったから好きですが...
テキスト全文を読む
(1カ月無料で登録)
会員登録すると資料をご覧いただくことができます。