●「脱ヒューマニズム」すれば人間の未来が見える
執行 これは偶然ですが、武士道をやってきて、キリスト教や仏教、仏教の特に禅が何もかもわかってしまうのです。
――全部、同じなんですね。
執行 そう思います。仏教の精髄も同じですが、今の仏教は平和一辺倒に偏り過ぎています。本当の仏教は、もっと荒々しいものです。先ほど言ったように昔の仏教者はすごくて、みんな武士道です。
鑑真も命懸けで日本に6回も来ようとして、失明しても日本に渡航し、宣教しようとした。鑑真が私は一番好きです。井上靖の『天平の甍』に出ています。私は小5のときに読んで感動しました。あれから鑑真を一番尊敬しています。あれは、そのまま武士道です。
―― やはり厳しさなんですね。
執行 そう。この『ベラスケスのキリスト』の中にあるウナムーノとキリストの魂の対決を見ていると、これを好きになった人は、必ず、人間の未来が見えます。それは脱ヒューマニズム。ヒューマニズムから脱することができる。
―― 脱ヒューマニズム。ここが大事なんですね。
執行 当然、そうです。キリスト教の中から神を抹殺し、調子のいい「愛」とか人間に心地いいものだけを抜いたのが、今の西洋文明です。
だから過去のキリスト教と対決するのは、ヒューマニズムを脱するということです。私がいつも引用するキリストの言葉で一番厳しいものは、ルカ伝12章49節以下「私はこの世に火を投ずるために来たのだ」です。「私はこの世に剣を投ずるために来た」ともマタイ伝10章34節以下で言っています。これがキリスト教の本質です。これと対決するということです。だから武士道なのです。
『聖書』を読むとわかりますが、キリストがはっきり言っています。「もし今、私がしゃべることがわからないなら、あるいは反対のことを言うやつがいるなら、親子なら縁を切れ、女房は叩き出せ、兄弟なら絶交しろ」と。私がしゃべることは、神の言葉である。神の言葉がわからないなら、家族も親友も女房も何もない。これがキリスト教です。
―― ものすごく厳しいですね。
執行 この部分だけ取り除いたのが今の西洋文明で、それをヒューマニズムと言うのです。だからヒューマニズムを脱することが重要なのだけれども、そのためにこの本(『ベラスケスのキリスト』)が重要なのです。私がこの本を読み込むことで書いた本が『脱人間論』...