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なぜ「無垢だった人たち」と一生涯対決するしかないのか

『ベラスケスのキリスト』を読み解く(6)偉大な宗教家のエキス

執行草舟
実業家/著述家/歌人
概要・テキスト
昔の仏教者の生き方は武士道そのままであった。日本への渡海に失敗して失明しても挫けず、ついに日本にやってきた鑑真も、その一人である。大事なのは「脱ヒューマニズム」だが、今の西洋文明はキリスト教のいいとこ取りにしかなっていない。キリスト教の本質は厳しさで、これが霊性文明の本質でもある。『ベラスケスのキリスト』を読み込めば、昔の宗教家の大事なエキスを取り戻せる。ミシェル・セールが『人類再生』で、「私を殺す者が、私を強化しているのである」という言葉を書いているが、この覚悟が重要である。(全13話中第6話)
※インタビュアー:神藏孝之(テンミニッツTV論説主幹)
時間:09:17
収録日:2022/08/02
追加日:2022/10/14
カテゴリー:
≪全文≫

●「脱ヒューマニズム」すれば人間の未来が見える


執行 これは偶然ですが、武士道をやってきて、キリスト教仏教仏教の特に禅が何もかもわかってしまうのです。

――全部、同じなんですね。 

執行 そう思います。仏教の精髄も同じですが、今の仏教は平和一辺倒に偏り過ぎています。本当の仏教は、もっと荒々しいものです。先ほど言ったように昔の仏教者はすごくて、みんな武士道です。

 鑑真も命懸けで日本に6回も来ようとして、失明しても日本に渡航し、宣教しようとした。鑑真が私は一番好きです。井上靖の『天平の甍』に出ています。私は小5のときに読んで感動しました。あれから鑑真を一番尊敬しています。あれは、そのまま武士道です。

―― やはり厳しさなんですね。

執行 そう。この『ベラスケスのキリスト』の中にあるウナムーノとキリストの魂の対決を見ていると、これを好きになった人は、必ず、人間の未来が見えます。それは脱ヒューマニズム。ヒューマニズムから脱することができる。

―― 脱ヒューマニズム。ここが大事なんですね。

執行 当然、そうです。キリスト教の中から神を抹殺し、調子のいい「愛」とか人間に心地いいものだけを抜いたのが、今の西洋文明です。

 だから過去のキリスト教と対決するのは、ヒューマニズムを脱するということです。私がいつも引用するキリストの言葉で一番厳しいものは、ルカ伝12章49節以下「私はこの世に火を投ずるために来たのだ」です。「私はこの世に剣を投ずるために来た」ともマタイ伝10章34節以下で言っています。これがキリスト教の本質です。これと対決するということです。だから武士道なのです。

 『聖書』を読むとわかりますが、キリストがはっきり言っています。「もし今、私がしゃべることがわからないなら、あるいは反対のことを言うやつがいるなら、親子なら縁を切れ、女房は叩き出せ、兄弟なら絶交しろ」と。私がしゃべることは、神の言葉である。神の言葉がわからないなら、家族も親友も女房も何もない。これがキリスト教です。

―― ものすごく厳しいですね。

執行 この部分だけ取り除いたのが今の西洋文明で、それをヒューマニズムと言うのです。だからヒューマニズムを脱することが重要なのだけれども、そのためにこの本(『ベラスケスのキリスト』)が重要なのです。私がこの本を読み込むことで書いた本が『脱人間論』...
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