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霊性文明とは「一生をかけた、宗教の本質との対決」である

『ベラスケスのキリスト』を読み解く(4)慈善は宗教の本質ではない

執行草舟
実業家/著述家/歌人
情報・テキスト
昔の宗教家は、信仰のために自らの命を投げ出すことができた。だが、現代人にそれは、とうてい無理である。だから新しい人間の魂を生み出すには、昔の宗教家の魂と対話して、命の価値を考えつづけ、葛藤しつづけるしかない。これを実際に行ったのがウナムーノで、その記録が『ベラスケスのキリスト』である。ウナムーノの葛藤を通じてわかるのは、文明の未来である。葛藤することで、「人間が持つ宇宙的使命」がわかってくる。宇宙的使命がわかると、人類がどのようになっていくかもわかる。これが霊性文明でもある。葛藤がなければ霊性文明は生まれない。(全13話中第4話)
※インタビュアー:神藏孝之(テンミニッツTV論説主幹)
時間:11:07
収録日:2022/08/02
追加日:2022/09/30
タグ:
≪全文≫

●かつて人間は信仰のために死ねたが、いまは無理である


執行 霊性文明というのは、「昔の宗教家が持っていた魂」と葛藤することによって、「新しい人間の魂」を生み出すことです。その意味で、禅やキリスト教仏教は大切です。ただし、昔の禅の大家、私が尊敬している臨済(義玄、りんざい・ぎげん)や百丈(懐海)、趙州(従諗) といった人たちの本もたくさん読んでいますが、絶対になれません。なれないものは、もう頑張ってもだめです。

―― 確かにそうですね。なれないものを頑張ってもだめ。

執行 臨済は禅の境地に行くために、弟子を全員殺したのですから。馬鹿な質問をしたら鉄扇で額を叩き割られた。これは本当の話です。

 こんなことは今はみんなしないし、もう無理です。だから宗教は無理です。今の宗教は、宗教ではない。本当の宗教とは、信仰のために死ぬことですから。

―― 確かにそうですね。信仰のために死ぬこと。

執行 早く死ぬほどいいのです。だからみんな喜び勇んで、早く死んでいくのです。昔の日本人で、死を恐れる人はいません。早く死ぬほうが立派だから。本当にそうなのです、信仰があるときは。その信仰には戻れない。

―― 確かに戻れないですね。

執行 したがって信仰していた人たちの魂と対話して、命の本当の価値は何かを考えつづける。そして葛藤しつづける。そういう文明に行くしかないということです。

 ただ、われわれ人類は、過去に偉大な宗教家を生み出しました。この人たちとの葛藤だけで、霊性文明になれると、識者もみんな言っています。現に、ウナムーノも達成していて、それが記録として残っているのが『ベラスケスのキリスト』です。

―― なるほど。対話と葛藤で霊性文明に。

執行 葛藤だけで「永遠の命とは何か」をウナムーノもつかめています。ウナムーノは「自分には信仰はない」と言っています。ウナムーノは有名な哲学者で、このような話をするので、ローマ教皇から破門されています。

―― 破門されたんですか。

執行 カトリシズムで、死ぬほど苦しみ抜いた人ですが、実際には破門されている。なぜなら、あまり言いたくありませんが、今のキリスト教が、もうキリスト教ではなくなったからです。

―― 変わったものになってしまったのですね。

執行 慈善団体です。慈善は悪いことではないですが、宗教ではありません。たとえば今の教会は何かあったら親切で、バザーをやったりします。あれは、昔の宗教に付随していた、ちょっとした枝葉です。

―― 本質じゃない。

執行 本質ではない。これは、内村鑑三も言っています。明治にキリスト教が来たとき、キリスト教徒になった人が、みんなすごくいい人になった。人に親切なのを見て、「とんでもない話だ」などと本に書いています。

 キリスト教を信じなければ、地獄に落ちる。終末に必ずキリストが再臨し、教徒だけが永遠の命に結びつけられる。これを信じるか信じないかがキリスト教だと、内村鑑三も言っているのです。だから親切だとか、何かをしたなどということは関係ない。そんなものはどうでもいいことだと。

―― 内村鑑三は、ゆえに独りになっていくわけですね。

執行 そう。あの当時でも、そうなんです。

―― 明治の頃でもそうだった。

執行 なったのは大正の終わりです。まだ明治にはいたのです、内村鑑三と一緒にキリスト教信仰のために死のうという人間が。それが大正デモクラシーで徐々にいなくなり、完璧にいなくなったのが、(内村鑑三が亡くなる前までの)昭和初期でしょうか。そして、ゼロになった。あそこから日本も完璧なヨーロッパ的物質文明に突入していった。だいたい歴史的にも合っています。

―― そうですね。


●『ベラスケスのキリスト』を読むと「人間が持つ宇宙的使命」がわかってくる


執行 ウナムーノのこの本を読むと、みんなも「力強い」と感じると思います。ウナムーノは「肉と骨の人間」ということを言っています。キリスト教は肉体を捨てて、「魂の永遠」ということを言っていますが、ウナムーノは「嫌だ」と言うのです。「私は生身の人間だ」と。私が目指す永遠は、「肉と骨の人間が持つ永遠」と言っている。

―― すごいですね。

執行 すごいことです。

―― 肉と骨の……。

執行 肉と骨の人間が考える永遠を、何が何でも知りたい。その人間がキリストと葛藤して、一生かけてためていった詩が『ベラスケスのキリスト』なのです。

 だから、私自身も肉と骨の人間です。武士道は肉と骨がなければできないから、やはりウナムーノとビシッと合うのです。それで非常にわかりやすいのです。

―― 一生かけて、ためていった詩なのですね。

執行 そうです。一生涯かけた。だからすごい長編詩になった。『ベラスケスのキリスト』が目指しているの...
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