テンミニッツTV|有識者による1話10分のオンライン講義
ログイン 会員登録 テンミニッツTVとは
テンミニッツTVは、有識者の生の声を10分間で伝える新しい教養動画メディアです。
すでにご登録済みの方は
このエントリーをはてなブックマークに追加

不幸の底から「新しい生」が湧き出てくるのだ

『ベラスケスのキリスト』を読み解く(7)不滅の生とは何か

執行草舟
実業家/著述家/歌人
情報・テキスト
執行草舟とウナムーノの出会いは、20歳のときに『生の悲劇的感情』を読んだことに始まる。執行草舟は『葉隠』のヨーロッパ版のように感じ、本書によりヨーロッパの騎士道と日本の武士道との相関関係もわかった。ウナムーノと武士道の共通点は、愛の本質を「苦しみ」としているところである。また『生の悲劇的感情』に「不幸の底から新しい生が湧き出てくる」とある。これこそ不滅の生を追求する人間の最も根源的な生き方であり、執行草舟の生命論の根源思想でもある。(全13話中第7話)
※インタビュアー:神藏孝之(テンミニッツTV論説主幹)
時間:12:50
収録日:2022/08/02
追加日:2022/10/21
タグ:
≪全文≫

●ヨーロッパの中心思想としてのウナムーノ


―― ウナムーノは日本ではあまり知られていませんが、先生との関係性をぜひ教えてください。

執行 私はまず武士道が好きでした。あとは読書が好きで、ヨーロッパの哲学、文学も好きで小中高と、気狂いのように読んできました。大学に入ったときにウナムーノの著作を知りました。そこにも並んでいる『ウナムーノ著作集』全5巻が、私が高校を終わるころに法政大学出版局から出たのです。大学1年になったときに、その中の『生の悲劇的感情』を読みました。哲学的興味を惹かれて。そして私はこの中に、とんでもない武士道を感じたのです。『葉隠』のヨーロッパ版というか、キリスト教版といったものを感じました。

―― なるほど、『葉隠』のヨーロッパ版。

執行 そう。惚れ込んだのです。この本の訳は多いですが、とくに佐々木孝先生という上智大学出身の先生の訳が素晴らしかった。後で英訳も読み、スペイン語版で読んでいる人も知っていますが、私は佐々木孝の訳した日本語が良かったと思います。魂に刺さるのです 。

 私は日本語でウナムーノを読んだことが、最も運が良かったと思っています。それも佐々木孝訳です。あと(イエズス会司祭のスペイン人)ホアン・マシアの訳した本もいいです。この著作集に出てくる訳は、だいたい素晴らしい。訳自体が武士道的です。

―― やはりその人の背負ってきた人生でしょうか。

執行 たぶん、そうです。その経験があったので、私はどうしても『ベラスケスのキリスト』を訳したかったのです。

―― それで本邦初の……。

執行 そうです。まえがきにも書きましたが、この『ベラスケスのキリスト』が日本語で読めることの、とてつもない幸福。これがわかれば、私がウナムーノの初めて出会ったときの幸福がわかります。

―― 先生が20歳のときに初めて出会った。

執行 佐々木孝先生の訳で読んで、とんでもなく感動した。後で英訳で読みましたが、英訳だとだめです。

―― だめですか。

執行 英訳だと武士道が来ない。スペイン語は読めませんが、スペイン語でも来ないのではないでしょうか。

―― 武士道が来ないんですね。

執行 来ないと思います。でも武士道を感じたために、私はこの本が好きになったのです。先ほど日沼倫太郎さんが(三島文学を)「恋闕の形而上学」と言ったという話をしましたが、私は『葉隠』自体が「恋闕の形而上学」だと思っています。

―― 『葉隠』自体が「恋闕の形而上学」。

執行 私はウナムーノという哲学者を知って、それが本当に腑に落ちた。ヨーロッパの騎士道と日本の武士道がどのくらい相関関係があるかわかったのも、ウナムーノの哲学によってです。

 だから騎士道自体は研究したことがありませんが、ウナムーノの哲学によってヨーロッパの騎士道の本質がわかった。

―― それは、すごいですね。

執行 そういう出会いです。後々、ウナムーノはカトリシズムの信仰が持てずに苦しみますが、その対立がヨーロッパをつくったと思うのです。


●「現世の方程式」と「生命の方程式」


執行 ダグラス・マレーという英国人が5年ぐらい前に『西洋の自死』(東洋経済新報社)という「ヨーロッパが移民問題で潰れる」と書いた本を出しました。これも名著で、そこにはっきりと書かれています。

 私はあれを見たときに驚きました。5年ぐらい前に、ヨーロッパが移民ひとつ止められず、自国の文明を失っていくのは、ヨーロッパ人がウナムーノの『生の悲劇的感情』を失ったからだと書いてあるのです。

―― それは、すごいですね。

執行 ウナムーノはそのくらいヨーロッパの中心思想なのです。その内容は、自分の魂とカトリシズムの葛藤です。その中心になるのが『ベラスケスのキリスト』の詩なのです。この詩に至る途中の苦悩が、いろいろな著作に途中で落っこちているのです。

―― その苦悩なんですね。

執行 苦悩なのです。『ベラスケスのキリスト』は、その総まとめです。これを書きたかった思いが、ウナムーノの全著作を生み出した。そういう瞑想なのです。それを知らず知らず、私はやったのです。

―― 20歳のときに、すでに出会っていた。

執行 20歳で初めて『生の悲劇的感情』でウナムーノを知った。その前にトインビーという歴史家が私は一番好きだったので、トインビーの歴史観とウナムーノの哲学が、私のヨーロッパ観の中心思想で、双璧です。

―― トインビーとウナムーノですね。歴史観と哲学は、そこでつくられたのですね。

執行 あとは先ほども話したジョン・ミルトンや、『葉隠』。それから普通の人はあまり評価していないでしょうが、埴谷雄高の『死霊』です。この文学が同じぐらいの価値で私の宇宙論、文明論を築き上げています。

―― なるほど。

執行 そしてウナ...
テキスト全文を読む
(1カ月無料で登録)
会員登録すると資料をご覧いただくことができます。