●徳川家康は「大権現=天皇より偉い」とする
とにかく上野の東叡山寛永寺に皇室によって徳川家康(東照大権現)を守らせるというデザインをつくった。しかも、比叡山における本地垂迹説、つまり天台宗に付属した形で育った神道思想に基づいて「権現という神さまは偉い」という形にした。この「権現(あるいは大権現)」は漢字の通り、全ての権威・権力を持ってこの世に現われているというものです。
密教系の思想においては、普通にこの世で暮らしていては見えない仏の世界や神々の世界と、現実的に統治しなくてはいけない世界の両方に影響力を及ぼしているものが最高に偉く、それを実践するのが大権現です。
天照大神のような高天原を支配して、この世を見守っているかもしれないけれども、この世に直接的な影響力を持っていないと思われるもの。あるいは神々の子孫としてこの世におり、京の都で位などを与えていて権威や格式は守っているけれども、あの世と直接つながっている高天原と連携があるわけでもなく、しかも現実の日本を力で治めているわけでもない天皇家というのは、今言った天台宗が育てた本地垂迹説的な神仏混淆の神道思想である「あの世とこの世を両方治めているもののほうが、あの世だけ、この世だけ治めているものよりも偉い」という理屈でいうと、どちらも大権現よりは偉くないということになるのです。
その大権現であり、日本を実際に実力で治めているのは徳川家であって、家康は徳川家の始祖として神になり、徳川家を日光あるいは久能山から見守っている。特に日光は江戸の真北です。あの場所をわざわざ天海が選んでいるわけです。真北は北極ですが、道教において北極は天皇です。北極星のことを「天皇星」といい、北にいるのが天皇だ、と。だから、象徴としては天皇に成り代わっているのです。
家康は大権現になってあの世を治めている。そして、現実の家康の子孫が江戸で日本を治めている。徳川家の子孫と家康が大権現のパワーを持っている。大権現のパワーは京都の朝廷や神話の神々の上にある。これは、忠義、上下関係を絶対的に守り続けることが大事だという儒教の思想プラス、大権現思想――あの世とこの世を貫いているのは徳川で、天皇家はあの世とこの世を実力においては貫いていない...