徳川家康の果断と深謀~指導者論と組織論
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松平、得川、徳川…その違いにみる家康の権威のつくり方
徳川家康の果断と深謀~指導者論・組織論(3)徳川と松平、御三家と御三卿
片山杜秀(慶應義塾大学法学部教授/音楽評論家)
徳川家康がデザインしたシステムの中で、とても巧みだったことに「名前」がある。松平家から一部の限られた者だけが徳川姓になることができた。しかも、その背景として仏教でも儒教でも重要な「徳」の字を選んだところにも、家康の権威のつくり方に学ぶ意味は大きい。ここでは徳川家が描いた姓をめぐるシステムの秘密に迫る。 (2022年9月14日開催日本ビジネス協会JBCインタラクティブセミナー講演「徳川家康の果断と深謀~その指導者論・組織論」より、全5話中第3話)
時間:10分28秒
収録日:2022年9月14日
追加日:2022年12月13日
≪全文≫

●徳川姓になる者、松平姓のままの者


片山 そのあと、「徳川と松平」という、またおかしな話があります。皆さんもご存じだと思いますが、徳川という姓は途中から使われます。徳川家康という人は、松平だったはずなのに、途中から徳川になるわけですね。

 しかも、松平家が全て徳川になったのなら分かりやすいのですが、改姓したならともかく、松平家の中で、当主とその核心的な部分(というのも変ですけれど)だけが徳川になります。家康の子どもでも、もちろん他家に養子に行った人もいます。また徳川姓になってもいいのだけれども、松平姓のままである人もいるわけですね。

 ということで、松平家だったはずの者が、当主が徳川を名乗るようになり、松平一族全部に徳川の姓を与えないで、一部分だけが徳川になるという、おかしな仕掛けをつくった。

 ただ、これはなぜかというと、松平家は官位が欲しかったからです。そこで朝廷との「官位は由緒正しい血筋でないと渡せない」というやりとりの中で、「実は源氏だ」「実は藤原氏だ」などと(悪い言い方をすれば)もともとの出自がよく分からない松平家が一生懸命、系図を捏造する。そうして、朝廷の公家や関白など、いろいろなところにお金を渡して系図を認めてもらって、位を貰うわけです。これが京都の朝廷の一番重要な収入源だったのです。

 武家の時代にどうやって食べているかというと、官位をあげるのです。だいたい戦国大名などというものは、(大変言葉は悪いのですが)どこの馬の骨か分からない人が下剋上でのしあがってくる。でも、然るべき位を貰おうとすると、「いや、この位は源氏でなくてはいけない」「平家でないといけない」「藤原氏でないといけない」となる。源氏や平家ということは、もともと皇族の血筋でないといけません。

 でも、実際はそうではない。そうではなかったら、系図を捏造するしかない。「おまえ、これはインチキだろう」「いやいや、インチキではありません。よろしくお願いします」などと言って、関白、太政大臣、大納言、中納言、そのときの武家伝奏役などが、武家の位を斡旋する。下の公家から上の公家まで全ての者に、「よろしく」といった工作をする。戦国大名の家来などでも、京都に行って「よろしく」といったことを行って、無事に位を貰えると「うちの殿さまもそれなり...

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