●絵具で書と同じ勢いを出せるのは、やはり天才
―― コシノさんはいろいろな画家の絵をご覧になるときに、どのようなインスピレーションを受けられるのでしょう。たとえば戸嶋靖昌さんの絵を見たときに受け取るのは、どのようなものですか。
コシノ それぞれ違いますから。違いがいいのであって、共通点はないと思います。一見似ているようで、似ていないです。みんなそれぞれ育ってきた過程や思いなど、いろいろと複雑なものが、全て一つの絵に集約されているわけです。その人の人生ですから。戸嶋なんて、全く「人生」ですよね。
執行 もう「人生そのもの」です。
コシノ 「人生そのもの」だと思うんですね。「この方の生きざまは、こうだったのか」みたいな絵だと思います。そうではないのですかね。
執行 それはコシノさんの絵も同じです。
コシノ だから、全く違うと思うのです。違うから魅力があるんじゃないでしょうか。
執行 コシノジュンコの絵は、油絵だと山口長男が合うのです。山口長男以外だと、書が合うのです。太い、勢いで書いた書が。ただ、書の場合は勢いで書けますが、同じ勢いで絵具で描ける人はいません。
コシノ 私の絵で、あれは書ですね、どちらかというと。
執行 はい、あれですね。
コシノ 文字ではないですが、書です。おそらく。
執行 あれとそっくりな書が、山岡鉄舟です。日本で最も有能な武士です。
コシノ あれを言葉にできたらもっといいのですが、言葉が出てこないので、ぜひつけてください(笑)。
執行 あれは山岡鉄舟の「龍」という字に近いです。
コシノ そう言われると、龍に見えてくるし。
執行 天に昇る龍です。
コシノ 昇り龍ですね。昇ってますね。そうですね。龍は大好きです(笑)。
執行 特に、ここに来たらすごいです。
コシノ そう、生かされました。色といい、ピッタリです。
執行 ここが好きで好きでたまらない、という雰囲気があります(笑)。
コシノ もう、ここに落ち着きました(笑)。
執行 すごいなあ。
コシノ これは書ですね。
執行 書というものは、勢いで書けるようになっているんです。墨も。ところが絵具は、勢いで描けるように作られていません。アクリルも油も全部、ちゃんと重ねて塗るように構造的に作られているんです。だから油やアクリルといった絵具を使って、書と同じ勢いを出せるのは、やはり天才なんです。
コシノ 基本はちょっと積み重ねて、最後に「勢い」なんですね。
執行 積み重ねも全部、「勢い」なんです。入っているのです。
コシノ あ、そうか。
執行 さっき言った潜在意識です。
コシノ だから「勢い」がないと、できないです。元気じゃなければ、できない。やると元気になる、逆に。
●「読書」や「理論構築」は弱さである
執行 コシノさんは元気を失ってもできますよ。もう本体がマグマになってますから。
コシノ 私は面白がるんです。楽しくなってしまう。だからやめられなくて。「もうそろそろやめよう……、もうちょっと」って。ちょっと、しつこいのですけれども、もうちょっとやりたい。
執行 お母さんと一緒じゃないですか。
コシノ なんかやめられない。やめ時が分からないのです。
執行 『カーネーション』を見ると、お母さんがそうですよね。それで、いろいろな失敗をしていますね。かなり。その失敗が面白いのです。
コシノ そうですね。失敗であろうが何だろうが、やりたいんです。
執行 徹夜でテントを縫って、膝を痛めた事件もありましたね。
コシノ もう夜中、朝まで縫って。あれは信念というか、「やればできる」。
執行 私も、信念という点は同じです。何でも体当たりでやってきた人間なのですが、あまり前後を考えない。ただ私は男なので、男の場合、体当たりが終わったあとに、理屈を考える。そういうところがあるのです。これが男の弱さです。
コシノ そこがクールです。あれだけの本に囲まれて、どれほど中身が濃いか。そこがやっぱり1つの……。
執行 まあ、私は読書が好きで、読書ばかりしていますけれども。
コシノ もう「頭の中、どうなっているんでしょうね」って思います(笑)。
執行 でも読書というのは、やはり「弱さ」です。私はそれは分かっているのです。読書をするということは、エネルギー的に言うと弱さなんです。動物でもそうですが、弱い動物は、やはり理論を構築して。
コシノ 納得。
執行 そう、自分で納得したいんです。強い動物は、そんなこと考えませんから。堂々と歩いているでしょう、ライオンやトラは。私は、読書はどうしても男の弱さだと思っています。だいたい理論なんていうのも、そうなんです。
●タイトルが『カーネーション』でよかった
執行 でも、今...