●迷うとおかしくなるから、ためて「エイッ!」っとやる
コシノ 三姉妹でも、私がだんじりを曳いていたんです。今でも帰ったら、まず法被を着ます。
執行 そうですか。
コシノ そう。全然変わりません。
執行 子どもの頃から曳いていましたよね。
コシノ そうです。やめられなくてね。 「もう、いい加減にしいや」みたいな感じです(笑)。だけど、やめられなくて。それが自分の勢いの中に、精神的にずっと尾を引いている。だからこれは自分自身の個性であり、宝ですよね、きっと。
執行 宝というレベルじゃない。そのものです。
コシノ だから絵を描くときに、私は「勢い」なんです。「迷わない」。迷ったりすると転んでしまうのです、だんじりは。「一気」なんです。
執行 あれは、そうですね。
コシノ もう一気、団結、バッと行かないと。それには「ためる」のです。ためないと。ためるときの、この変な空気がいいんです。
執行 爆発ということ?
コシノ ためて、ためて、「ウゥーッ」って行くんです。だんじりは、そうなのです。ゆっくりダラダラしているように見えますが、走る前に「ウゥー」という、この空気感がいいんです。見ている人も、全員息が止まる感じです。
執行 勢いがなかったら、かえって危険ですよね。
コシノ 勢いがないと曲がれないし、一致団結できないんです。そのようなものが私の絵にあると思います。
執行 全部あります。
コシノ 迷うとおかしくなってしまうのです。だから、ためて「エイッ!」っとやらないと。「ためる」というのが、すごく大切です。
執行 それはコシノさんの全てに表れていますね。ファッションもそうですが。
コシノ それと、ライバルの中で大きくなったから、「みんなと一緒」が嫌なんです。それぞれ自分の個性がないと生きていかれないみたいな。常に競争みたいな中で、何をやってもそうだったから、「オリジナリティ」とか「自分の生き方」とか「個性」というのを、しっかり持たないと流されてしまう。絵とか何とかではなく、人間の生き方が。そうやって小さい頃から育っているので、何かに見えてきますね。
執行 岸和田の持っていた、昔のいいエネルギーを、コシノ家の人間が、お母さんを含めて集約していますよね。岸和田という場所で歴史が育んだ一つの雰囲気があって、その雰囲気をコシノ家が収斂(しゅうれん)し、集めた。そういう感じがします。
コシノ ある意味で、使命ですね。あそこの真ん中に家がある、お店があるというのは、人生の使命です。それが大きなポイントにもなる。また、運よく『カーネーション』がものすごく当たって、岸和田イコール『カーネーション』みたいになってしまって。
執行 なってますよね。
コシノ (町の中に)書いてありますから(笑)。そうした中で「磨く」というのは、どんどん余計なものを取って、いいものだけを残していくということなので。
執行 コシノさんに実際に会ったのは私が70歳近くなってからですが、もう何の違和感もなかったです。
コシノ もうストーリーを勝手に蓄積されて。
執行 私がイメージしていたものが、そのままでした。違っている箇所は1カ所もないです。
コシノ そうですか(笑)。
執行 そのイメージは、やはり岸和田から。
コシノ 納得いきました。これだけのコレクションが、ちゃんとここで収まっているということは、ここが「実家」になっている。どこか違うところにお嫁に行ったのではなく、「実家」に戻ったみたいな空気感があるのが分かりました。それで今、納得いきました。
―― 実家というのはすごいですね。
コシノ 実家。そうそう(笑)。
執行 岸和田があるみたいなものですね。
コシノ 岸和田というより、新しい実家ですね。
執行 ああ。一つはエネルギーですね。
コシノ そうですね。収まるところに収まるというか。自然というのは水の流れのように、ちゃんと流れていくんですね。そういう意味で、「いい流れ」を作ってくださったと思います。
●母が三姉妹に語った「どの指切っても痛いねん」
執行 お母さんがいて、コシノ三姉妹それぞれ面白い部分を全員持っていますが、だんじりのエネルギーを一番受けてるのはジュンコさんですね。
コシノ そうです。もう、全くそうです。
執行 本人もちゃんと分かっているのですね。
コシノ 全然違うのです。タイプが。
執行 だんじりが、そのまま来ている。
コシノ 姉は初孫でかわいがられて、お嬢ちゃまで。じっと着物でも着て、チントンシャンでいるわけです。
執行 優等生タイプですよね。
コシノ 私はそれに反発してたから。それでもう、ブワーッと行くほうでしょ。妹はテニス、テニスで、テニス人生だから、だんじりのときも、い...