●映画『火の鳥』の衣装デザイン秘話
―― 皆さま、こんにちは。本日はコシノジュンコさん、執行草舟さんにお話を伺います。どうぞよろしくお願いいたします。
執行 よろしくお願いします。
コシノ よろしくお願いします。
―― 今回コシノさんに、この戸嶋靖昌記念館にお越しいただきました。ご覧になっていかがでしょう。
コシノ 何度か寄らせていただきましたが、まさか私の絵がここに「落ち着く」とは、本当に夢のようです。こんなに素晴らしいプライベートギャラリーをお持ちの方はいませんから。
まず、ここに入ってきて、空間の作り方、色、すべて好きです。そこに私の大好きな山口長男の絵が、しっとりと入っているんですね。その横にいるなんてことは、夢のようです。本当に私は幸せです。
―― 山口長男さんの絵とのバランスということですか。
コシノ バランスどころか、私はそれこそお呼びでないですけれども、本当に光栄です。
執行 口を挟むようですが、山口長男とコシノさんの絵をコラボしているのは、今回「流体の美学」という題名で展覧会を開いているからです。私は、「流体の美学」という一つの宇宙エネルギーを考えているのですが、その宇宙エネルギーの発露として、山口長男の油絵とコシノジュンコの作品、ほかにもいろいろな人の書などをコラボして、素晴らしいものだけを並べています。
一番多いのがコシノジュンコと山口長男の作品で、主力を占めています。今回はそういう意味で、山口長男と一緒に並んでいるのです。
コシノ ここに巨匠の山口長男がいて、そこにどんどん広がりができている。執行さんの感性の凄さがだんだん見えてきたというのか、落ち着いてきたというのか……。この空間は本当に別格です。
大きなギャラリーやミュージアムもありますが、(ここでは)一つひとつに息がかかっています。これはもう人間味だと思います。それを感じられると思うのです。
―― 執行さんは一番最初に、コシノさんをどのようにお知りになったのでしょう。
執行 私は、悪いのですが男なので、若い頃は女性のファッションに全然興味がありませんでした。興味がないので、あまり見ていなかったのですが、一番最初にコシノジュンコという名前を知って圧倒されたのは『火の鳥』という映画です。
コシノ 手塚治虫の。
執行 そうです。『火の鳥』を見て、衣装をやったのがコシノジュンコと出ていた。『火の鳥』がすごい映画で、その衣装を全部担当された。あとで話しますが、私は『火の鳥』によって古代史などで理解できたことがすごく多かったのです。それも全部コシノジュンコという人の「衣装の力」です。ここからコシノジュンコという名前を知りました。
その後は私も興味を持ち、ファッションショーはあまり行きませんでしたが、展覧会などを見るようになりました。コシノジュンコという画家が、このような素晴らしい絵を描いていることを知り、仰天したのです。腰を抜かしたというか、そのくらい衝撃を受けました。
それからは、すっかりコシノファンになり、少しずつできる範囲で集めさせていただいています。もう相当集まってきたので、このような展覧会を開けるようになりました。これからもっと増えるから楽しみにしてください。
コシノ 『火の鳥』の映画をご覧になったというのは本当に嬉しいです。私は映画の衣装はあまりやっていませんが、突然そういうお話があったのです。
ただ典型的な原始的なお話ですので、見たことがない衣装をやるわけです。現実離れしているというか。そういう意味で「超過去は超未来と一緒」だと考えて、自分の中で勝手にイメージをして、監督だろうが演出家だろうが(気にせず)、私の世界を勝手に作ってしまって、先に絵を描いたんです。脚本ができる前に、先にイメージをバーッと絵に描いた。
執行 脚本の前に。
コシノ そうです。漫画の本を送ってきたので、手塚治虫さんの漫画を見て、自分で勝手にその世界をバーッと広げた。イメージが分かったら、手が勝手に動きます。それで一気に描いてしまったのです。まだ脚本家もこれからなのに、「あ、これで行こう」と一気になってしまいました。
もし私が、野原の何もないところで一人で生活することになれば、どんなふうになるか。どうやって食べていくか。何を着るか。本当に何もないわけですから、この手で何ができるかというところから始まって。
執行 疑似体験ですね。
コシノ 本当に手作りの。メカニックなものは何もないし、化学繊維や化学染料なども何もない。とにかく自然なもので何ができるかということで、ちょっと挑戦したのですが、それが本当に手間がかかってかかって。たとえば、一着を作るのに、いちいち手紡ぎで糸を作って、そこから織るとか。
執行 そういうと...