●見えないところで本当にきちんと整えるのが「日本の感性」
執行 あと、やっぱり水茄子(みずなす)もおいしかった。あれは岸和田の?
コシノ そう。水茄子は、岸和田のある「点」みたいなところから取り寄せるんです。「どこでもいい」じゃないんです。その漬け方が(素晴らしい)。東京まで来るあいだに何時間かありますよね。その時間を計算して、ちょっとナマみたいな感じで(送る)。(東京に着いて)食べる頃になると、ちょうど味付けがいい。その辺がすごく、プロですね。
執行 すごいなぁ。
コシノ 見えないけれど、裏ではそういう感性や努力がある。見えないのですが、それが本当の「おもてなし」だと思います。「もてなす」というのは、前もって人に見せつけるものではないんです。
執行 準備のことを言うんですよね。
コシノ 見えないものですよね。聞いた話ですが、江戸時代は「思ってもみないことを成し遂げる」というふうに言ったらしいのです。だから、先に答えを言ってはダメなんです。答えは一切言わない。
執行 私が聞いたのは「おもてがない」と。
コシノ それは私が勝手に考えたものです。『コシノジュンコ流おもてなし』(PHP研究所)という本を出したときに。「おもてなし」は敬語ですよね。「もてなす」に「お」ですから。それを「ひらがな」で書いて「漢字」にしたらどうかしら、そうすると「表がない」。全部、裏の仕事だと。
執行 「見えない」ということですね。
コシノ 見えないところで、本当にきちんと整えて、下ごしらえをして。これは見せるものではなくて。それによって、もう「点」みたいなもので感動するわけです。そこが「日本の感性」かなと思うんです。
執行 日本人の感性でしょうね。
―― 「誰かに何かをして差し上げる」ということも、ある意味ではその積み重ねということですね。その裏で、どういうことまで考えているか。
コシノ そうですね。
―― 先ほどの美空さんのお話も本当にそうですね。
コシノ いいでしょう?
―― ずっと覚えていらっしゃって。
コシノ ずっと忘れないです。
執行 あの人は日本で一番忙しかった人の一人です。そういう人が、かえって考えてくれた。
コシノ それをちゃんと、いちいち行ったところ行ったところで用意してくれているのです。
執行 大スターですからね。分刻みの人生。
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