●今、目の前にあることを楽しんで大切にすることが、人生の成功
―― 以前「テンミニッツTV」で執行さんがコシノさんの『56(ごろく)の大丈夫』という本を紹介されたことがありました。
コシノ そうですか。
―― その話をお聞きになった視聴者の女性から質問をいただきました。
「日々の仕事の中で、頭が固い人がいたり、融通が利かない人がいたりする。そういうものを女性の力で、どう突破していくか。その力をコシノさんが非常にお持ちのような気がしました。ぜひその秘訣を知りたいのですが」という質問でした。周りにそういう人がいた場合、どう突破していけばいいとお考えですか。
コシノ 「女性」ということを意識し過ぎていますね。私はあまり自分が女性だと意識していないです。男性ではないけれど、女性を意識していないですね。意識するのはやはり仕事とか、時代とか、目の前のこととか。
執行 対象物ですよね。
コシノ 見えるもの。見えるものは意識しますよ。見えないものは意識のしようがないですね。だから意識の仕方が違うのではないでしょうか。
私は自分が女性だから、やっているわけではない。気がついたら「女性かな」などと思いますし、やっぱり女性ですけれども。無視はしていないのですが、でも、女性は独特の現実文化を持っているのです。男性と、そこが少し違うように思います。
男性はすごく大きな理想論を持っています。女性は目の前の現実に強いんです。いざとなったら、ものすごい強いのです。
執行 原始性ですよ。
コシノ 現実のものなんです。
執行 これが女性の一番の(強さです)。だからコシノジュンコさんは最も女性的だとも言えるのです。
コシノ だから、女性が持っていた潜在的な意識みたいなものがあります。早く言えば、目の前の現実のものには、ものすごく強いし、そこに敏感だし。未来や先のことは分からないけれど、「今、大切じゃないの?」みたいなことが私は好きなんです。
『(56の)大丈夫』は全部、人、人、人なんです。「人のために喜んでもらう」。これが、やはり一番の快感ですね。
そして「大丈夫」の「大」は「一人(「一」と「人」)」からなるのです。やっぱり一人一人が大切で、「みんな一緒くた」ではないと思うのですね。
執行 あの本はもともと「岸和田思想」ですからね。
コシノ そうですね(笑)。
執行 あの『56(の大丈夫)』には岸和田の思想が書かれています。
―― 先ほどのお母さまの話もそうですが、人を大切にするところからエネルギーが集まってくる。
コシノ やはり人が好きでないと。人嫌いはダメですよ。「自分も人だ」ということを忘れてしまいます。人のことばかり見ていて、自分のことが見えない。みんな人なんですよね。動物とは違って、人は人です。
執行 それはコシノさんと会って初めて話をさせていただいてから、ずっと感じていることです。コシノさんの最大の特徴は何かというと、いろいろな言葉がありますが、やはり「人間賛歌」。「人間が好き」というものです。
コシノ そうです。
執行 これは初めて会ったときから、ずっと感じています。「人間がすごく好き」ということが、コシノさんの持っているあらゆる力を出させている。
だから今質問された方は、言葉は悪いですが防御的なものが強いのかもしれません。例えば「自分が好かれたい」とか。そうではなく、今コシノさんが話されたのは「自分がどうか」ではなく、「相手にどうしてあげるか」ということだと思います。
―― 先ほど、性別に囚われない、時に囚われない、自分の歳にも囚われない、空間にも囚われないと言われました。だけど自分の中にあるもの、厳然としてあるものが、そのまま、おのずと流れていけば、それが力になっていく、というところもあるわけですよね。
コシノ 私はどこにいても対応できます、本当言って。「こうでなきゃダメだ」というように、理論的ではないのです。「たっぷりと広くて優雅な」といったものもいいのですが、それだけだと退屈する場合もあります。何がいいかは、別に決めていないですね。
執行 そういう中心性というものを、コシノさんにはずっと感じています。内輪話になってしまいますが、今も、つい何日か前までニューヨークにいた。それで昨日かおとといまで、神戸にいた。
コシノ 昨日ですね。
執行 それで今ここにいて、この平然とした何もないような、しゃべり方(笑)。
コシノ だから、「今日は日帰りで大変だ」と思わないんです。けっこう楽しんでいますから。何もやらないのに「大変」はないですよ。
毎日、一日一日が有意義というのが一番幸せだし、人生の成功だと思います。明日は見えないから、どうなるか分からない。ただ、今、目の前にあることをすごく楽...