●宇宙は、見えない空間や時代とつながっている
コシノ ブロードウェイで『Pacific Overtures』(ミュージカル「太平洋序曲」)をやったんです。そのときもニューヨークと東京で、今みたいにメールがあるわけではなく連絡が大変だから、お話が来て3日間で全部やったのです。江戸時代から現代まで、全部のデザインを一気にやったのです。やはり「勢い」というのは、気持ちが入れば、できますね。考えじゃなく、もう「ブワー」っと動くというのでしょうか。3日間でやりました。
執行 衣装?
コシノ デザインです。
―― 枚数でいうと、どのぐらいになるんですか。
コシノ 100点は軽いですね。
執行 100点ぐらいはあるでしょうね、あれ全部だから。
コシノ それも江戸時代、ちょんまげの時代、大名の時代、徳川の時代から、明治天皇になって、現代まで全部やるわけです。あまりにも違うのです。だけど、「私、そういうの弱いわ」と言いながら、できるものなんですね。その気にならないとダメですね。あれも、だんじりの力かな(笑)。
執行 そう、だんじりの中に入っている。
コシノ そうかもしれない。もう動いちゃって、「動くしかない!」みたいな。
執行 古代エネルギーですよ。原始、縄文の力。
コシノ 縄文なんです、私。
執行 だから古代エネルギーです。古代エネルギーは根源的には生命エネルギーです。だからコシノ作品は生命的なんです。私は理論でも「生命賛歌」というものを書きましたが、コシノ芸術の生命賛歌は、原始性なんです。
私のコシノ芸術の理論でいうと、コシノ芸術は「未来の芸術」だと信じています。これから人間は、魂を大切にした「霊性文明」に入らなければならない。現に、入っていくと思っています。その時代を牽引する芸術だと思うのです。
どうして未来の霊性文明を牽引できるかというと、古代を把握しているからです。古代が新しい時代を作るというのが、私は人類学の一つの理論だと思っています。
コシノ 私は『火の鳥』の衣装をやったときに、そういうふうに思いました。過去の原始的なもの、ゼロから始まって、そのずっと先の、見えない先まで宇宙でつながっていると思ったのです。
だから、今、自分はここにいるけれど、見えない両方の世界ですよね、見えない想像の世界です。それと、宇宙はつながっている。宇宙というのは地球のことではなく、空間や時代とつながるものだと、勝手に想像してやったのが『火の鳥』でした。
執行 今いみじくも言われましたが、これはコシノジュンコという人の一つのマグマ性、天才性です。コシノさんがしゃべられた「全部、宇宙とつながっている」というのは、いまや量子力学で物理学的にも証明されています。ノーベル賞などを獲っている物理学の理論は、ほとんどそうです。
まだ時間までは行ってませんが、空間的にはパリと東京が(つながっている)。例えば東京で物が動けば、パリでも動く。それが不思議ではないことが、量子の世界では証明されています。
ちょっと難しい話になっちゃって申し訳ないんだけども、時間と空間が、現在と過去、未来、それから東京とパリ、ニューヨークが全部同時に共振してつながってるんだということが証明されると、僕はね、新しい時代に入ってくると思う。
コシノ 全部それ、スマホでできるじゃないですか。世界が一つで。「今東京、今どこ」ではなく、時差があろうがなかろうが。
執行 だから一歩近づいたわけです。
コシノ コロナのあとに、どんな文化ができるのか。ヨーロッパでペストが流行ったときにルネサンス時代が来たというように、新しい文化が始まった。今度は、どんな文化になるのか。文化という「見えないもの」ですけれども、生活状況とか違うわけでしょ。日本とか何とかではなく、「平ら」というか「一緒」というか、そこかなという気がします。
執行 スマホが始まりですよね。
コシノ そうなんです。
執行 私もあれが一歩だと思っています。さらにもっと発展して、本当に同じだということ。極端に言うと、タイムスリップではありませんが、5000年前の人が考えてることと今私が考えてることが本当に共振し合うということです。
●子どもは「ものを知らない」のではなく「知らなくて自由」だ
コシノ だから私は年齢もないと思うのです。
執行 そう、ないです。年齢なんて。
コシノ 年齢を意識すること自体が、すごく数字的ですよね。
執行 要するに、言葉としては間違いかもしれませんが、肉体だけに囚われている、肉体だけを人間だと思っている。(そうではなくて)肉体と魂とか、肉体といろいろな歴史、いろいろなものが堆積して人間が出来上がっていると分かると、年齢なんてないんです。
コシノ 年齢なんて、なくていいのです。年...