●子どものときの経験が、潜在意識として消えない
執行 衣装で「コシノジュンコ」と出ている映画は、やはり衣装の力がすごいです。服の力です。私がファッションの力を本当に見たのは、あの『火の鳥』から始まります。コシノジュンコという人の作品です。そう思ってずっと何十年か来たのですが……。
コシノ つながることはありますか?
執行 つながっています。あの絵画を見て、何十年かの蓄積が、私の中で爆発したのです。
コシノ ああ、そうですか。
執行 だから急に見て、急に言っているのではないのです。
コシノ 嬉しいですね。ストーリーがあって、その前の前からご存じで。
執行 そうです。ストーリーの始まりは『火の鳥』ですから。
コシノ そういう接点があるとは全然知りませんでしたから、「え、どうして私の絵をこんなに?」と思っていたのですが、この空間に来て、あまりにも、作品たちが喜んでおります(笑)。
執行 やはり、感動というものは、「急に」ということはないのです。
コシノ そうですね。
執行 自分では知らなくても、何段階か踏んでいるのです。何段階か踏んでいるのを自分で知らないのが潜在意識。知らないだけなんです。
それこそ「服が持つ力」というものをコシノジュンコから、あの映画以来ずっと感じていますが、(朝ドラの)『カーネーション』を見て(さらに感じました)。お母さんから(コシノ三姉妹の)全員に共通しているのは「服の持つ力で世の中に貢献する」という信念です。母親からきょうだいまで全部持っています。
コシノ 私は、岸和田のだんじり祭りのど真ん中に生まれて、やはりだんじり精神というか、勢いというか……。
執行 あれがすごいですね。
コシノ あれが根にありますね。
執行 それが潜在意識です。
コシノ そうなんです。子どもの頃の思い出は、それしかないのですけれども。うちの母はもう「仕事、仕事」でやってきていますが、あの環境で、だんじりがあるわけです。やはり子どものときの経験は、何かしら潜在意識として消えないですね。
執行 重要です。それから、急に『カーネーション』の話になって恐縮ですが。
コシノ(笑)
執行 あれは岸和田もよかったけれど、出てくる人たちがとにかく素晴らしい。お世辞を言っているわけじゃなく。名前は皆、わざと違っていましたが。
コシノ そうですね。それはもうしょうがない。架空のように。
執行 でも、そのものズバリです。
コシノ ズバリなんです。
執行 スタイルまで一緒ですから。みんな出てくる人。
コシノ うちの母の物語ですけれども、娘たちは健在ですから。錯覚でちょっと現実に見えますが、母はもうとっくに亡くなっています。ただ、ああいう朝ドラは現実にいる人のストーリーではなく、もう現実にいない、すでに亡くなった人の過去のストーリーです。NHKですから、(やれば)宣伝になりますからね。
執行 あれは、すごかった。話が急に変わってしまって恐縮ですが、朝ドラで、とにかくお母さんの生き方に本当に魅力がある。あれに感動しない人は、いないと思います。
コシノ 先日、ニューヨークに行ったのですが、ニューヨークでも聞きました。やはり見ている人がいます。ブラジルでも、マニアックみたいな人がいて、「私、この3日間見てないの」「いや、私が教える」とか。
執行 あれは、そうです。あの作品には、それだけの力があります。もちろん俳優もよかったし、物語の土台になる岸和田がいい。だんじりです。
コシノ 揃ってますね。
執行 岸和田とか、だんじりとか。ドラマでは「小原」という家でしたが、コシノさんの家ですよね。コシノさんの家に伝わる「服の力を顕現するんだ」という……。
コシノ あの戦後の環境の中で強く生きる女性という意味で、やはり仕事をするという(覚悟です)。それと、うちは女系なんです。
執行 すごいですよね、女の子ばかり。
コシノ 女系だから「男の人に頼ってどうする」といった、なよっとした人は誰もいない。とにかく「自分でやらないと誰がやるの?」みたいな。いわゆる「だんじり精神」です、結果的には。そういう環境で育ったから、自分の世界を持っています。「誰にも頼らず自分の生き方をやろう」という。
執行 言うのは簡単ですが、なかなか、そうはいかないですよね。
コシノ そうなんです。うちの母を見ていると、とにかく先頭切って走っていましたね。
執行 あれは簡単そうに見えるけれど、本当に、それだけの歴史や、何よりも家系的な愛情を受けていないとできません。だから作品中では小原ですが、コシノ家の一つの愛情の系譜が全部わかります。あの、すごい愛情が。表面的な愛情ではないんです。表面は喧嘩ばかりしてましたからね(笑)。
コシノ そう...