深掘りシェイクスピア~謎の生涯と名作秘話
この講義シリーズは第2話まで
登録不要無料視聴できます!
▶ 第1話を無料視聴する
閉じる
この講義の続きはもちろん、
5,000本以上の動画を好きなだけ見られる。
スキマ時間に“一流の教養”が身につく
まずは72時間¥0で体験
最も素晴らしい愚行は恋愛…シェイクスピアの喜劇世界
深掘りシェイクスピア~謎の生涯と名作秘話(4)シェイクスピアの喜劇世界と人間の愚かさ
河合祥一郎(東京大学大学院総合文化研究科教授)
「人間の最も素晴らしい愚行は恋愛」――シェイクスピアは、“人間の愚かさ”を嘆くのではなく、喜劇を通じてそれを寿いだ。それは、過ちを犯すことこそ人間の本質と考えた、当時の人文主義的な思想とも重なる。過ちの極致にあるのが恋愛。今回は、『夏の夜の夢』『お気に召すまま』などを取り上げながら、愚かさの象徴としての恋愛をモチーフに描いたシェイクスピアの喜劇世界を解説する。(全6話中第4話)
時間:12分46秒
収録日:2023年4月12日
追加日:2023年8月3日
≪全文≫

●人間の愚かさを寿ぐシェイクスピアの喜劇世界と人文主義思想


 こんにちは。河合祥一郎です。第4回は、シェイクスピアの喜劇世界を取り上げることにしましょう。

 悲劇世界が“To be OR not to be(あれかこれか)”の世界ならば、喜劇世界は“To be AND not to be(あれでもあり、これでもある)”の世界だといわれています。これは、前回ご紹介したオクシモロン(矛盾語法)の世界です。

 “Oxymoron”というのはもともとギリシャ語で“Oxy-”は「賢い」、“moron”は「愚か」を表します。シェイクスピアには“wise fool(賢い道化)”が多数登場しますが、道化(fool)というのは愚か者という意味ですから、“wise fool”自体がオクシモロンです。喜劇の最高峰とされる『十二夜』ではヒロインのヴァイオラが“This fellow is wise enough to play the fool.(この人は道化を演じられるほど賢い)”と言います。

 愚かであることが寿(ことほ)がれる世界、それがシェイクスピアの喜劇世界だといっていいでしょう。シェイクスピアには、人間とは愚かな存在であるという認識があります。

 シェイクスピアが描きだす人間の本質というものは、当時のヨーロッパに広く浸透していた人文主義思想、ユマニスムと切り離して考えることはできません。人文主義者としては、『痴愚神礼讃』を著したエラスムス(1466年-1536年)や、『ユートピア』を書いたサー・トマス・モア(1478年-1535年)などが有名ですが、その思想はギリシャ・ローマ時代の文芸復興の機運と結びつき、人間性を肯定するものでした。

 その人間性とは、常に正しい神とは違って、人間は過ちを犯すものであり、過ちを改めることに意義があるとする考え方に基づきます。

 人間は愚かだということを認めて、自分の至らなさを自覚するところから始めようとするのが人文主義思想です。

 この思想を遡れば、哲学の父祖であるソクラテスに至ります。ソクラテスが説いた「無知の知」という思想が人文主義の基礎を成しているといえます。無知の知とは何か。それはこのように説明されます。

 ある日アテネの神託があって、ソクラテスは「アテネ中で一番の賢者はソクラテス...

スキマ時間でも、ながら学びでも
第一人者による講義を1話10分でお届け
さっそく始めてみる
「芸術と文化」でまず見るべき講義シリーズ
『源氏物語』を味わう(1)『源氏物語』を読むための基礎知識
源氏物語の基礎知識…人物関係図でみる物語の流れと読み方
林望
クラシックで学ぶ世界史(1)時代を映す音楽とキリスト教
音楽はなぜ時代を映し出すのか?…音楽と人の歴史の関係
片山杜秀
印象派の誕生~8人の主要な芸術家
マネ、モネ、ルノワール…芸術家8人の関係と印象派の誕生
安井裕雄
岡倉天心『茶の本』と日本文化(1)岡倉天心の生涯
岡倉天心の『茶の本』…世界に向けた日本伝統文化の発信
大久保喬樹
ルネサンス美術の見方(1)ルネサンス美術とは何か
ルネサンスはどうやって始まった?…美術の時代背景
池上英洋
ピアノでたどる西洋音楽史(1)ヴィヴァルディとバッハ
ピアノの歴史は江戸時代に始まった
野本由紀夫

人気の講義ランキングTOP10
エネルギーと医学から考える空海が拓く未来(1)サイバー・フィジカル融合と心身一如
なぜ空海が現代社会に重要か――新しい社会の創造のために
鎌田東二
編集部ラジオ2025(29)歴史作家の舞台裏を学べる
歴史作家・中村彰彦先生に学ぶ歴史の探り方、活かし方
テンミニッツ・アカデミー編集部
歴史の探り方、活かし方(1)歴史小説と史料探索の基本
日本は素晴らしい歴史史料の宝庫…よい史料の見つけ方とは
中村彰彦
内側から見たアメリカと日本(6)日本企業の敗因は二つのオウンゴール
日本企業が世界のビジネスに乗り遅れた要因はオウンゴール
島田晴雄
学力喪失の危機~言語習得と理解の本質(1)数が理解できない子どもたち
なぜ算数が苦手な子どもが多いのか?学力喪失の真相に迫る
今井むつみ
経験学習を促すリーダーシップ(1)経験学習の基本
成長を促す「3つの経験」とは?経験学習の基本を学ぶ
松尾睦
ChatGPT~AIと人間の未来(1)ChatGPTは何ができて、何ができないか
ChatGPTは考えてない?…「AIの回答」の本質とは
西垣通
「宇宙の創生」の仕組みと宇宙物理学の歴史(1)宇宙の階層構造
「宇宙の階層構造」誕生の謎に迫るのが宇宙物理学のテーマ
岡朋治
何回説明しても伝わらない問題と認知科学(1)「スキーマ」問題と認知の仕組み
なぜ「何回説明しても伝わらない」のか?鍵は認知の仕組み
今井むつみ
習近平中国の真実…米中関係・台湾問題(6)習近平のレガシー
国力がピークアウトする中国…習近平のレガシーとは?
垂秀夫