●江戸の町名主が3代かけて完成させた『江戸名所図会』
―― 皆さま、こんにちは。
堀口 こんにちは。
―― 本日は堀口茉純先生に『江戸名所図会』(えどめいしょずえ)を歩くというテーマでお話をいただきたいと思います。堀口先生、どうぞよろしくお願いいたします。
堀口 よろしくお願いします。
―― 堀口先生は書籍でデビューしたのが『TOKUGAWA 15(フィフティーン) 徳川将軍15人の歴史がDEEPにわかる本』(草思社)という話題作が第1作でございます。
堀口 ありがとうございます。
―― その後、PHP新書から『江戸はスゴイ 世界一幸せな人びとの浮世ぐらし』、『歌舞伎はスゴイ 江戸の名優たちと“芝居国”の歴史』、『吉原はスゴイ 江戸文化を育んだ魅惑の遊郭』の三部作がございます。
堀口 川上さんにお世話になって。
―― いえいえ。ありがとうございます。近著としては『江戸はスゴイ 世界一幸せな人びとの浮世ぐらし』の新書が文庫化になりました(『江戸はスゴイ 世界が驚く!最先端都市の歴史・文化・風俗』(PHP文庫))。あと、同じくPHP新書から『徳川家・松平家の51人 家康が築いた最強一族の興亡』が出ました。これに限らず本当に数多く江戸にまつわるご本をご発刊でございます。
堀口 ありがたいことです。
―― NHKのラジオの「DJ日本史」にもご出演でございますとか、本当に数多くご出演をされていらっしゃるということでございます。今日は貴重な機会をいただきまして、誠にありがとうございます。
堀口 よろしくお願いいたします。楽しみに参りました。
―― それで、今日は『江戸名所図会』ということなのですが、これはどういうご本になるのですか。
堀口 『江戸名所図会』は、江戸時代後期の天保年間に書かれました。神田の町名主に斎藤月岑(さいとうげっしん)という人がおりまして、この斎藤月岑が刊行した7巻20冊からなる本格的な江戸の地誌であります。
―― 町名主の人がそういう本を作るというのが大変面白いと思うのです。
堀口 そうなのですよ。
―― 町名主というのはどういう立場の人なのですか。
堀口 これは、いわゆる武士と町人の世界と大きく分かれますけれども、この町人の世界を管轄する役人というような立ち回りの方です。この斎藤家というのが、徳川家康公が江戸に入ってくる前から江戸の名主層を務めていたとされている家柄でありまして、非常に郷土愛が強い、江戸愛が強い一族だったのです。
それで斎藤月岑のおじいさま、祖父の代から3代にわたって、この本格的な江戸の地誌を作るという事業を始めるわけなのです。
―― 3代というのがまたすごいですね。
堀口 そうですね。『葵 徳川三代』という大河ドラマでもありましたが、おじいさまから引き継いで、月岑の代で完成したのがこの『江戸名所図会』ということなのです。
やはり、かなり江戸の町名主が携わっている本ですから、情報の密度が濃いですし、また精度も高いと言われております。とくに、長谷川雪旦(はせがわせったん)という絵師による挿絵が非常に細かくて、当時の町の雰囲気が手に取るようにわかるということで、とても面白いのです。
今日はこの『江戸名所図会』を使いながらお話を進めていきたいと思っています。
―― そうですね。実際にそこに載せられた絵を見て、さらに、それを見た後で今の現地へも行ってみましょうと。
堀口 そうなのです。
―― ということで、江戸の景色を『江戸名所図会』で味わい、さらにそれが今どうなっているかというのを映像で見ていただいて、江戸ないし東京という町の歴史の深み、幅の広さをぜひお伝えできればということでございます。
堀口 はい。
―― よろしくお願いいたします。
堀口 お願いします。
●道三堀の整備に見る徳川家康のデベロッパーとしての才覚
―― 最初に取り上げていただくのは、『江戸名所図会』の中でもどこになりますか。
堀口 『江戸名所図会』の第1巻のいちばん初めに取り上げられている町が、日本橋界隈なのです。
―― さすが日本橋ですね。
堀口 はい。というのも、江戸時代の日本の中心地と言える場所が日本橋だったので、『江戸名所図会』で、その日本橋の様子から見ていきたいと思っています。
―― はい。よろしくお願いいたします。まずこの絵をご覧いただきたいと思います。これは真ん中に橋がドンと描かれて、川が流れてということですが。
堀口 さようでございます。これが本当に江戸時代の日本橋の姿なわけなのです。下に流れている川が非常に重要で、これが、家康公が江戸時...