東アジアにおける近代の啓蒙~儒教と近代
この講義は登録不要無料視聴できます!
▶ 無料視聴する
この講義の続きはもちろん、
5,000本以上の動画を好きなだけ見られる。
スキマ時間に“一流の教養”が身につく
まずは72時間¥0で体験
胡適が中国に導入した新哲学「プラグマティズム」とは?
東アジアにおける近代の啓蒙~儒教と近代(1)胡適と福沢諭吉の「浅い啓蒙」
中島隆博(東京大学東洋文化研究所長・教授)
胡適と福沢諭吉は、ヨーロッパ的な啓蒙に対して、中国と日本でそれぞれ「浅い啓蒙」を行ったという。浅い啓蒙とは一体何か。中国と日本に何がもたらされたのか。中島隆博氏が東アジアにおける近代の啓蒙を語る。(全4話中第1話目)
時間:12分22秒
収録日:2014年10月7日
追加日:2015年1月28日
≪全文≫

●福沢と胡適が、東アジアの啓蒙の問題を考えた


 前回、中国における儒教復興を手掛かりにいろいろとお話を差し上げましたが、今日は、「啓蒙」という問題を考えてみたいと思います。

 近代ヨーロッパに東アジアが接したとき、いろいろな課題が浮上してきたわけですが、中でもヨーロッパ的な啓蒙をどのように引き受けるかが大変大きな問題になりました。啓蒙は英語では“enlightenment”で、新しい光を与えることです。その光は闇の部分に当てるわけですが、では、その闇とはいったい何かというと、それは宗教的な闇でした。

 ヨーロッパには宗教戦争があり、血で血を洗う戦いが行われました。ようやくそれが一段落して、寛容という問題が登場します。そういった背景の中、近代は理性に基づいた人間を構築する方向に進みます。理性を有した近代的個人とは、宗教的な信仰から距離をとった合理的な思考をしていく人間ですが、彼らの精神をどのように構築していくかが大変大きな課題となりました。

 その課題を東アジアが引き受けていくことになります。日本では福沢諭吉が啓蒙の問題を非常に深く考えていきます。一方で、中国では、胡適という中国哲学の先生がこの問題を考えていくのです。


●福沢も胡適も、「浅い啓蒙」を考えていた


 私は、この二人には非常に似ているところがあると思います。どちらも実はヨーロッパ的な近代の啓蒙に対して、私の言葉で言いますと、ある種の「浅い啓蒙」を考えていた人ではないかと思います。浅い啓蒙とは、深い啓蒙に対立する言葉です。深さではなく浅さを考えるのが、東アジアの啓蒙の一つの特徴だと思います。

 福沢も胡適も、ヨーロッパ近代のことを非常によく分かっていました。ヨーロッパ近代を背後で支えているのはもちろん理性ですが、実はその理性に、キリスト教的なものが張り付いていることまで分かっていたのです。ヨーロッパ的な啓蒙は、内面を持った個人を析出していきます。個人の内面の深いところまで降りていきます。心を掘っていくのです。それが神に通じていきます。キリスト教を背景に持つヨーロッパ的啓蒙は、このようなタイプの個人を想定しました。

 二人とも、啓蒙の重要性を大変深く認めながらも、その背後にあるキリスト教的なものが日本や中国にはないことも分かっていました。それならば、そのような背景を欠いた啓蒙を実現した...

スキマ時間でも、ながら学びでも
第一人者による講義を1話10分でお届け
さっそく始めてみる
「哲学と生き方」でまず見るべき講義シリーズ
世界神話の中の古事記・日本書紀(1)人間の位置づけ
世界神話と日本神話の違いの特徴は「人間の格づけ」にある
鎌田東二
エネルギーと医学から考える空海が拓く未来(1)サイバー・フィジカル融合と心身一如
なぜ空海が現代社会に重要か――新しい社会の創造のために
鎌田東二
禅とは何か~禅と仏教の心(1)アメリカの禅と日本の禅
自発性を重んじる――藤田一照師が禅と仏教の心を説く
藤田一照
逆境に対峙する哲学(1)日常性が「破れ」て思考が始まる
逆境に対峙する哲学カフェ…西洋哲学×東洋哲学で問う矛盾
津崎良典
道徳と多様性~道徳のメカニズム(1)既存の道徳の問題点
多様性の時代に必要な道徳とは…科学的アプローチで考える
鄭雄一
老荘思想に学ぶ(1)力のメカニズム
老荘思想は今の時代に人類の指針となる
田口佳史

人気の講義ランキングTOP10
逆境に対峙する哲学(2)運命・世界・他者
「私をお母さんと呼ばないで」…突然訪れた逆境の意味
津崎良典
戦争とディール~米露外交とロシア・ウクライナ戦争の行方
「武器商人」となったアメリカ…ディール至上主義は失敗!?
東秀敏
渡部昇一の「わが体験的キリスト教論」(1)古き良きキリスト教社会
古き良きヨーロッパのキリスト教社会が克明にわかる名著
渡部玄一
豊臣兄弟~秀吉と秀長の実像に迫る(1)史実としての豊臣兄弟と秀長の役割
豊臣兄弟の謎…明らかになった秀吉政権での秀長の役割
黒田基樹
平和の追求~哲学者たちの構想(4)ルソーが考える平和と自由
ルソーの「コスモポリタニズム批判」…分権的連邦国家構想
川出良枝
熟睡できる環境・習慣とは(4)起きているときを充実させるために
夜まとめて寝なくてもいい!?「分割睡眠」という方法とは
西野精治
何回説明しても伝わらない問題と認知科学(1)「スキーマ」問題と認知の仕組み
なぜ「何回説明しても伝わらない」のか?鍵は認知の仕組み
今井むつみ
「重要思考」で考え、伝え、聴き、議論する(1)「重要思考」のエッセンス
重要思考とは?「一瞬で大切なことを伝える技術」を学ぶ
三谷宏治
「アメリカの教会」でわかる米国の本質(1)アメリカはそもそも分断社会
「キリスト教は知らない」ではアメリカ市民はつとまらない
橋爪大三郎
死と宗教~教養としての「死の講義」(1)「自分が死ぬ」ということ
世界の宗教は死をどう考えるか…科学では死はわからない
橋爪大三郎