東アジアにおける近代の啓蒙~儒教と近代
この講義シリーズの第1話
登録不要無料視聴できます!
▶ 第1話を無料視聴する
閉じる
この講義の続きはもちろん、
5,000本以上の動画を好きなだけ見られる。
スキマ時間に“一流の教養”が身につく
まずは72時間¥0で体験
儒教は東アジアの近代的な啓蒙にとって目障りな存在だった
東アジアにおける近代の啓蒙~儒教と近代(2)浅い啓蒙と深い儒教
中島隆博(東京大学東洋文化研究所長・教授)
胡適や福沢諭吉が目指した「浅い啓蒙」にとって、「儒教」はどうも目障りな存在だったようだ。浅い啓蒙と深い儒教の相容れない関係を、中島隆博氏が説く。(全4話中第2話目)
時間:13分13秒
収録日:2014年10月7日
追加日:2015年1月29日
≪全文≫

●「打倒孔家店」の必要はないと胡適は言った


 儒教をキリスト教化していくことによって、キリスト教に匹敵する精神性を持つ。儒教は同時に中国の伝統に根差したものですから、儒教をキリスト教化すれば、西洋の科学技術をそのまま受け取るのではなく、中国の伝統や精神性と適合する形で受け入れる土壌をつくることができる。胡適はこのように考えていきました。

 中国でよく孔子批判のときに、「打倒孔家店(ダーダオコンジアディエン)」、つまり「孔子の店を打倒せよ」という言い方がなされましたが、晩年の胡適は「打倒する必要はない」と言いました。

 胡適は中国近代の啓蒙の旗手で、当初は儒教に対して非常に厳しい態度をとっていました。浅い啓蒙に儒教などいらない、新しい哲学、新しい文学があればよいと考えていました。ところが、その胡適でさえ、儒教のある種の深さを再導入しなければなりませんでした。ここに中国近代の啓蒙のある種の困難さ、アポリアがあるのではないかと思います。

 もちろん、胡適は一方で「自分の学のあり方は浅い。それは長所なのだ」とも繰り返し言いました。しかし、浅い啓蒙と新しい宗教としての儒教が結びつくことで生まれてきた豊かさを、われわれはうまく実感できないだろうと思うのです。


●福沢にとって、内面的な問題は重要ではなかった


 胡適の苦労は、多分、福沢諭吉も共有した問題だろうと思います。例えば、福沢の自伝『福翁自伝』は非常に面白いのですが、人格が苦労して形成されていく物語ではありません。実は、福沢は、自分は最初から啓蒙された子どもであったと、自らを書いているのです。

 『福翁自伝』で印象的なのは、福沢が、自分の行ったことに対して、ある種の軽妙な距離感を保っていることです。佐伯彰一先生が、このようなことをおっしゃっています。

 「福沢は、まことに溌剌、かつ柔軟な書き手で、ほとんど楽しみながら、つぎつぎと大量の著作を物した。ほとんど天性の物書きといった人物だったけれど、自我表現という問題に一度でも頭を悩ましたことがあったとは思われない。噴出、あるいは定着の機会を待ちかねて、烈しくふるえつづけている内的自我といったものには、全く無縁であった。」

 この批評は印象的で、福沢の啓蒙のあり方を非常によく示しています。内的な自我といったものを構築する必要を福沢は感じていません。彼は...

スキマ時間でも、ながら学びでも
第一人者による講義を1話10分でお届け
さっそく始めてみる
「哲学と生き方」でまず見るべき講義シリーズ
道徳と多様性~道徳のメカニズム(1)既存の道徳の問題点
多様性の時代に必要な道徳とは…科学的アプローチで考える
鄭雄一
「50歳からの勉強法」を学ぶ(1)大人の学びの心得三箇条
大人の学び・3つの心得=自由、世間が教科書、孤独を覚悟
童門冬二
禅とは何か~禅と仏教の心(1)アメリカの禅と日本の禅
自発性を重んじる――藤田一照師が禅と仏教の心を説く
藤田一照
楽観は強い意志であり、悲観は人間の本性である
これからの時代をつくるのは、間違いなく「楽観主義」な人
小宮山宏
西洋哲学史の10人~哲学入門(1)ソクラテス 最初の哲学者
ソクラテス:「フィロソフィア」の意味を問う最初の哲学者
貫成人
「アメリカの教会」でわかる米国の本質(1)アメリカはそもそも分断社会
「キリスト教は知らない」ではアメリカ市民はつとまらない
橋爪大三郎

人気の講義ランキングTOP10
葛飾北斎と応為~その生涯と作品(1)北斎の画狂人生と名作への進化
葛飾北斎と応為…画狂の親娘はいかに傑作へと進化したか
堀口茉純
中国共産党と人権問題(1)中国共産党の思惑と歴史的背景
深刻化する中国の人権問題…中国共産党の思惑と人権の本質
橋爪大三郎
プロジェクトマネジメントの基本(2)プロジェクトの複雑性とマネジメント
コスパが鍵!? 顧客満足につながる品質マネジメントとは
大塚有希子
エネルギーと医学から考える空海が拓く未来(1)サイバー・フィジカル融合と心身一如
なぜ空海が現代社会に重要か――新しい社会の創造のために
鎌田東二
何回説明しても伝わらない問題と認知科学(1)「スキーマ」問題と認知の仕組み
なぜ「何回説明しても伝わらない」のか?鍵は認知の仕組み
今井むつみ
健診結果から考える健康管理・新5カ条(1)血管をより長く守ることが重要な時代
健康診断の結果が悪い人が絶対にやってはいけないこと
野口緑
「重要思考」で考え、伝え、聴き、議論する(1)「重要思考」のエッセンス
重要思考とは?「一瞬で大切なことを伝える技術」を学ぶ
三谷宏治
歴史の探り方、活かし方(1)歴史小説と史料探索の基本
日本は素晴らしい歴史史料の宝庫…よい史料の見つけ方とは
中村彰彦
徳と仏教の人生論(1)経営者の条件と50年間悩み続けた命題
宇宙の理法――松下幸之助からの命題が50年後に解けた理由
田口佳史
学力喪失の危機~言語習得と理解の本質(1)数が理解できない子どもたち
なぜ算数が苦手な子どもが多いのか?学力喪失の真相に迫る
今井むつみ