東アジアにおける近代の啓蒙~儒教と近代
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朱子学と陽明学の違いは…王陽明の「心学」は一種の独我論
東アジアにおける近代の啓蒙~儒教と近代(4)王陽明の転換~陽明学の誕生と変遷
中島隆博(東京大学東洋文化研究所教授)
しかし朱子学は宿命的に、啓蒙の限界に行き当たらざるを得ない。王陽明の陽明学は、それへの反論として生まれた。だが陽明学は、やがて東アジアの近代化の中で、諸勢力の思惑に利用されていく。胡適や福沢諭吉の「浅い啓蒙」は、なぜ深さを嫌ったのか。中島隆博氏が解説する「東アジアにおける近代の啓蒙」シリーズ最終話。(全4話中第4話目)
時間:9分07秒
収録日:2014年10月7日
追加日:2015年1月31日
≪全文≫

●仏教経由で内面の啓蒙に向かった朱子学


 では、ここ(啓蒙の第二のステップ)までよしとしましょう。

 つまり、朱子学は、やはりある種の内面に関わった、内面を持ち出した啓蒙である。それは、おそらく仏教から来ています。仏教もやはり人々の心に触れていく教えでしたから、仏教のよいところをうまく抜き出していったのです。ですから、それは結果的に、近代においても、内面の問題、内面の啓蒙に儒教が関わっていくチャンネルを、朱子学が仏教経由でつくっているということが分かります。

 ただ、次のステップ、これを踏まなければならなかった。なぜならば、例えば、Aさんが自己啓蒙に成功したとして、では、Bさんが自己啓蒙を始めることに、どういう寄与ができるのか。啓蒙を始めていない人、そういう内面を持たない人、そういう人が啓蒙を始めることができるかどうか。これは難問です。


●自己啓蒙と他者啓蒙。朱子学が抱えた啓蒙のアポリア


 これはもともと仏教にあった問題と構造的に同じだと私は思っています。例えば、信仰を始めた人、信仰心を持ち始めることを、発菩提心(ほつぼだいしん)といいます。仏教を信じる。どのようにして、そういう菩提心を持つことを、それを持っていない人に、仕向けることができるのか。これと同じ問題だと思うのです。朱熹もやはりここにたどり着くのです。他者を啓蒙するにはどうしたらいいのか。

 ところが、これに答えはありません。なぜなら、あくまでも内面での自己啓蒙を前提にしていますから、内面の自己啓蒙である以上、外から啓蒙させるわけにはいかず、内面において自己啓蒙を始めるしかないのです。

 ここに、朱子学がある種のアポリアを抱えていく、啓蒙の限界を持っていくことが分かります。

 私の言葉で言う、福沢諭吉の「浅い啓蒙」にはこの問題は生じませんから、他者啓蒙という点では、福沢の方が優れているのかもしれません。

 しかし、朱熹はそこで、他者啓蒙を、ある意味で放棄してしまいます。結局、自己啓蒙を始められる人は勝手に始める、そういう言い方しかできなくなりますし、あるいは、その誠意がおのずと伝達されるのだというフィクションをつくるしかなくなってくる。非常に難しいのです。


●王陽明が行きついた“窮理”の限界


 この問題を真面目に受け取ったのが、王陽明でした。陽明学というものです。陽明は、非...

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