歴史的転換点における影の主役「インフレ」
この講義シリーズの第1話
登録不要無料視聴できます!
▶ 第1話を無料視聴する
閉じる
この講義の続きはもちろん、
5,000本以上の動画を好きなだけ見られる。
スキマ時間に“一流の教養”が身につく
まずは72時間¥0で体験
1900年代日本経済の不安定化を招いたインフレと不人気政策
歴史的転換点における影の主役「インフレ」(2)幕末のインフレと1900年代前半
政治と経済
養田功一郎(元三井住友DSアセットマネジメント執行役員/YODA LAB代表/金融・経済・歴史研究者)
インフレ傾向が強まる現在の日本経済だが、幕末にもインフレは起こっていた。黒船来航に震災、疫病など複合的な要因で発生したインフレの影響により明治維新へと突き進んでいくことになるのだが、実は現在の日本とよく似た状況にあったのは幕末期だけではない。1900年代前半、特に第1次世界大戦が始まった1914年から第二次世界大戦前までの日本もまた、安全保障上の緊張やパンデミックに直面しており、現在の情勢と重ね合わせることができる。戦争特需や世界恐慌などに翻弄され、浮き沈みした当時の日本経済を振り返る。(全3話中第2話)
時間:13分52秒
収録日:2023年12月26日
追加日:2024年2月22日
≪全文≫

●幕末のインフレの実態とその功罪


 さて、幕末のインフレですが、それ以外にも黒船騒動からの国防意識の高まりで、物資の供給が軍事品に偏ったこと、武器などを買い求める人々が大量に発生したこと、開国により海外勢が日本の物資、例えば生糸などを高値で購入したこと、震災、疫病の発生で生産力やサービスの提供が落ち込んだことなどの理由もあったでしょう。これら複合的な要因によって、幕末にインフレが発生します。

 それでは、幕末においてどの程度のインフレが起こったのでしょうか。

 こちらの、幕末の物価指数の表をご覧ください、

 先ほどから申し上げているように、金と銀の相対的な価値が変化したので、どちらを基準にインフレ率を計算するかで違いがありますが、ペリー来航の1853年頃と幕末の1867年を比べると、銀基準(オレンジの線)で8倍ほど、金基準(グレーの線)でも4倍ほどの物価高になっていることが分かります。そして、米(青の線)の価格ですが、これは10倍をはるかに超える価格になっています。

 武器の売買や金銀の両替を担う豪商、生糸の生産者、仲買人などはかなり儲かったと思います。渋沢栄一の生家は養蚕(ようさん)農家でしたので大層儲かったことでしょう。

 また、私の生まれ故郷の前橋では、生糸商人の下村善太郎が大変な富を築き、厩橋城再築の資金を提供し、さらに初代前橋市長になりました。なぜこのように短期間で財を成すことが出来たのか少し不思議に思っていたのですが、生糸が海外で人気があったという以外に、インフレによる価格上昇分の儲けが大きかったと考えています。

 一方、収入が決まっている武士や劇的に生産量を増やせない農民、街に住む一般的な職人、商人などは収入が上がらず、食べるのにも困ったことになったと思います。幕末には「ええじゃないか」という民衆の踊りが流行したといわれていますが、これなども困窮して明日も分からない民衆の怒りや嘆き、そして開き直りが背景にあると思います。

 なんといっても、武士や農民は江戸幕府の重要な支持基盤です。その重要な支持基盤の人々が困窮したのは幕府にとって痛手だったでしょう。

 こうした状況下で、海外、朝廷、そして力をつけた雄藩への対応で権力に陰りが出てきた幕府でしたが、...

スキマ時間でも、ながら学びでも
第一人者による講義を1話10分でお届け
さっそく始めてみる
「政治と経済」でまず見るべき講義シリーズ
デジタル全体主義を哲学的に考える(1)デジタル全体主義とは何か
20世紀型の全体主義とは違う現代の「デジタル全体主義」
中島隆博
グローバル環境の変化と日本の課題(1)世界の貿易・投資の構造変化
トランプの動きを止められるのは?グローバル環境の現在地
石黒憲彦
アンチ・グローバリズムの行方を読む(1)世界情勢の転換
強まるアンチ・グローバリズムの動きをどう見ればいいか
岡本行夫
トランプ政権と「一寸先は闇」の国際秩序(1)国際秩序の転換点と既存秩序の崩壊
経済秩序や普遍的価値観を破壊し、軍事力行使も辞さぬ米国
佐橋亮
「新しい資本主義」の本質と課題(1)新自由主義と『21世紀の資本』
新自由主義からの時代背景から「新しい資本主義」を問う
柳川範之
クライン『ショック・ドクトリン』の真実(1)ショック・ドクトリンとは何か
100分de名著!?『ショック・ドクトリン』驚愕の印象操作
柿埜真吾

人気の講義ランキングTOP10
ヒトは共同保育~生物学から考える子育て(3)共同保育を現代社会に取り戻す
狩猟採集生活の知恵を生かせ!共同保育実現に向けた動き
長谷川眞理子
トランプ・ドクトリンと米国第一主義外交(1)リヤド演説とトランプ・ドクトリン
トランプ・ドクトリンの衝撃――民主主義からの大転換へ
東秀敏
外交とは何か~不戦不敗の要諦を問う(2)外交と軍事のバランス
外政家・原敬とは違う…職業外交官・幣原喜重郎の評価は?
小原雅博
数学と音楽の不思議な関係(3)音と三角関数とフーリエ級数
フーリエ解析、三角関数…数学を使えば音の原材料が分かる
中島さち子
「集権と分権」から考える日本の核心(5)島国という地理的条件と高い森林率
各々の地でそれぞれ勝手に…森林率が高い島国・日本の特徴
片山杜秀
経験学習を促すリーダーシップ(1)経験学習の基本
成長を促す「3つの経験」とは?経験学習の基本を学ぶ
松尾睦
大統領に告ぐ…硫黄島からの手紙の真実(1)ルーズベルトに与ふる書
奇跡の史実…硫黄島の戦いと「ルーズベルトに与ふる書」
門田隆将
第2の人生を明るくする労働市場改革(2)前提が崩れた日本的雇用慣行
日本人全員ではない…日本的雇用慣行のターゲットは誰?
宮本弘曉
キケロ『老年について』を読む(1)キケロの評価と「老年の心構え」
老年が惨めと思われる4つの理由とは…キケロの論駁に学べ
本村凌二
50代からの親の介護~その課題と準備(1)突然やってくる介護の問題
「親の介護」の問題…優しさだけでは続かない
太田差惠子