●金融危機や富の二極分化のルーツは「会社は株主のものだ」
アメリカのなかで金融危機が起きたり、それからいろいろと世知辛くて住みにくい、富の二極分化が起きたようないろいろな社会的な現象の分析はたくさんありますが、一言で言うと、ルーツは「会社は株主のものだ」という言葉に尽きると思います。
「会社は株主のものだ」ということは、昔から商法や会社法で「株主が会社を持っている」ということが定義されているので、法律上は正しいけれども、正しいからと言って株主が「会社の利益は自分たちだけが最優先で受ける」という主張をし出して、その論理をつくり出してきたところが、いまのアメリカの経済の荒廃に繋がっていると思います。
マクロ経済的には、米国はまだますます繁栄するでしょう。というのは、「会社は株主のものだ」という考え方の下における株主資本主義や、その究極のものは金融資本主義ですが、この時代はあと20、30年は続くわけですから。しかし、やがてはアメリカ合衆国を破たんに導く大きな原因になるでしょう。
●アメリカンエアラインにみる「株主重視」という考え方
そして感じるのは、「株主重視」というと、日本はあまりにも株主軽視でやってきましたから、株主重視を重要だと思う人は多いかもしれないけれども、私はその株主重視に対して「どこがおかしいんですか」という日本の人には、アメリカンエアラインの事例を出します。
これは、2008年にアメリカンエアラインが航空機不況で従業員に対して340億円の給料の削減を求めたときに、航空機不況ですから会社が潰れたらユナイテッドやデルタに再就職ができる可能性はほとんどないので、彼らも受け入れたわけです。
このときに、日本人の普通の人たちならば、「従業員も給料を削減されたのだから、経営陣もより高い率で給料を削減しよう」と動きます。ところが米国ではどうなったかというと、従業員が給与カットを受け入れたので、経営陣はボーナスをとっているのです。
これをどのように考えればいいのかと、変に思ったり不思議に思う日本人がほとんど全部でしょうが、米国のロジックは「会社は株主のものだ」ということです。したがって、給料という会社に対する負債、それも今年だけでなく毎年続いていくものをカットしてくれた経営陣が会社の利益を上げたのですから、負債をカットすることによって収益は上がりますので、その経営陣が1回だけ200億円のボーナスをとるということの一体どこが悪いのか、会社は株主のものだから、会社に対する負債である給料を削減してくれた経営陣が一時的にボーナスをとるところにロジック上、何がおかしいのか、ということです。ですから、これを批判するとアメリカのなかでは共産主義者と思われることも多いです。
もちろん、米国の労働者は給与削減で自分たちばかり損をしているので、「なんて貪欲な経営者なんだ」と批判しますが、このときには、ここにもありますとおり「わが社の経営報酬は航空会社を含む他のアメリカ企業と同様に市場に基づいている」「株主と経営者の長期的な利害関係を合わせるように設計されているのだ」と答えたのです。これは誰も文句が言えない答弁です。
米国で社外取締役や独立取締役は、会社のコーポレート・ガバナンスという観点からこういったことを行う経営陣を批判するのかというと、しません。これは、社外取締役や独立取締役は根底に「会社は株主のものだ」という考え方をもとに置いて設計されている資本主義の原理に「いまの行為は逸脱していない」と考えるからです。ですから、このような株主重視という考え方は大きなインパクトを持ってくるのです。
●アメリカが日米並行協議を進める最大の理由
いまTPPの交渉が行われていますが、それと同時に日米並行協議というものが日米間で議論されています。このなかにUSTR(アメリカ通商外交部)が出している株主重視という考え方がありますが、この株主重視という考え方に基づいてTPPの条約の批准とともに日米並行協議の内容も日米間の法律として、国際法として自動的に決まることが規定されていますが、もしもこれが決まっていくと日本も大変な影響力を受け入れることになります。
というのは、株主重視という考え方における国際法が日米間で締結されると、日本の憲法の第98条第2項の規定により、国際法は日本の国内法よりも優先されることになります。すなわち国際法で決められた条文と矛盾する日本国内法は、順次書き換えられ改正されていく運命にあります。
日本では2006年の会社法改正でかなり株主重視の考え方が取り入れられていますが、実際にいまのアメリカンエアラインのようなケースが日本で起きた場合に、経営陣がボーナスをとるという実例はほとんど日本にはないでしょうし、まったくないと言っていい...