現代の難しい局面において、現実主義と理想主義のバランスはどうあるべきか。特にその狭間にあるのが「核のない世界」で、唯一の被爆国である日本がそのためにどういった外交を進めていくべきなのか。そこが今、問われている状況である。今回の講義では、イスラエルとハマスの戦争を例に「自衛権と人道」という難しい問題を取り上げながら、現実主義と理想主義について考える。(2025年4月15日開催:紀伊国屋書店本店トークイベントより、全5話中第4話)
※司会者:川上達史(テンミニッツ・アカデミー編集長)
≪全文≫
●「自衛権と人道」という問題とイスラエルとハマスの戦争
―― 特に今の局面、こういった外交的な困難な時期に、現代の日本を考えた場合、先生がご本の中で、例えばキッシンジャー等々も挙げながら、いわゆる理想主義とリアリズム(現実主義)のバランスをどうしていくかという議論もされています。今の局面において、日本はどういう理想主義を掲げながら、どういう現実的な手を打っていくべきなのかというところについては、いかがお考えですか。
小原 本の中には2つの例が書いてありますけれど、特に皆さんに考えていただきたいのですが、これは1つの答えがあるわけではない問題です。非常に難しい。これもまた二項対立なのです。
1つは、「自衛権と人道」という問題です。この本の中で採り上げたのは半分、現在進行形になりますが、中東の混乱です。つまりイスラエルとハマスの戦争ですね。
これは最初にハマスの戦士たち、戦闘員たちが、イスラエルの国境を越えてトンネルを作ったわけです。それで、女性、子どもも含めて無辜の市民(もちろん兵士もいたわけですが)2000数百人を殺害した。それも、とても写真を見られないような殺害の仕方をしている。まさにテロです。ハマスは、国連もそうですが欧米からテロ組織に指定されているわけですね。そういったテロ行為があった。
テロ行為は、いわゆる文明社会でいえば絶対に許されない話なのです。テロに対しては、いわゆる西側の諸国は特にそうですが、徹底的に屈服しない。テロには屈服しないということでやってきている。つまり、テロは戦場がない、見えない。開かれた市民社会に突然、暴力をもって無辜の人たちを襲うわけです。それでもって恐怖を広げていく。こういうことですから、文明社会からすると、とても許されることではない。
他方で、自衛権が国連憲章で(定められている)。2つの大きな大戦を経た後に国際社会は、戦争を基本的に禁止としました。第1次世界大戦後に不戦条約がありましたが、第2次大戦後には国連憲章の中で、武力を使うのは例外的に2つしか認められないとした。それは自衛権の中の集団的自衛権と個別的自衛権です。つまり、自衛権しかダメだということを決めたのです。この自衛権からすると当然、イスラエルは反撃ができるわけです。そして反撃をしたわけです。
ところが、ハマスはご承知のように、地下にものすごく長いト...