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リーダーの条件に共通するものとは

リーダーと教育者

山内昌之
東京大学名誉教授/歴史学者/武蔵野大学国際総合研究所客員教授
情報・テキスト
荻生徂徠
今、日本の内外でも問われることが多い「リーダーとは何か」。この問いは、政治家、教育者、医者といった職業のあり方にも共通するものがある。孫子や荻生徂徠など四人の賢者の言葉を引用しながら、リーダーの役割、心構え、条件などについて解説し、リーダーやリーダーシップの本質に迫る。
時間:15:05
収録日:2014/02/05
追加日:2014/02/24
キーワード:
≪全文≫

●「リーダーとは何か」とは「教えるとは何か」


 山内昌之です。こんにちは。

 最近、「リーダーとは何か」ということが、日本の内外でも問われることが多いように思われます。また、日本の政治や外交において、「リーダーシップとはどうあるべきか」ということもしばしば問われます。

 考えてみますと、この「リーダーとは何か」という問いかけに一番近い問いかけとは、私は、「教えるとは何か」ということではないかと思います。すなわち、リーダーとは、ある面で「教育者とは何か」ということにもつながるように思えてなりません。

 イギリスの戦略戦史専門家に、リデル・ハートという人がいます。リデル・ハートは、「心の平静は指導者に不可欠の資質である」と、リーダーの条件について述べたことがあります。考えてみますと、教師もまた、発達期、あるいは未成年期の多くの子どもたちを育てていくという意味において、彼らに接する場合、規模は違っていても、ある意味でリーダーの資格を持たざるを得ません。そうした彼らが、子どもたちを育てていくリーダーの資質として何が大事かと言いますと、どの子どもたちに対しても、どのような局面、どのような場面においても、いつも心が冷静であるということが大事ではないかと思います。

 政治、国際政治や国際金融経済においてもそうですが、物事はいつも順調に進むとは限りません。むしろ、危機や混乱がつきまとうことがほとんどと言ってもよいでしょう。ある意味で、未知の将来へ向かって成長していく子どもたちもまた、そのような混乱や危機に直面しながら進んでいくのです。そのような点で、子どもたちを育て、接していく教師の役割とは、やはりリーダーとしての資質に共通するものがあるかと思います。

 混乱する部下、あるいは集団を冷静沈着に指揮できるのが、将、リーダーというものです。また同じように、日々の生活や学習において、混乱することもあり、理解が及ばないこともある子どもたちを束ねて、できるだけ正しい進路へと導いていくことも、リーダーとしての教師の役割になるかと思います。


●将の資質である「智、信、仁、勇、厳」


 ご承知の方も多いと思いますが、中国の古代に、「孫子の兵法」で知られる孫子という兵法家、思想家がいました。孫子は、「将とは何か」ということについて議論し、将とは、「智、信、仁、勇、厳なり」と言っています。

 「智」とは、言うまでもなく、智恵、ウィズダムで、知性や教養ということになります。また、「信」とは、心に真があるということ、真実であるということに他なりません。さらに、「仁」とは何か。これは孔子も好きな言葉でしたが、思いやりということだと考えてよいでしょう。そして、「勇」とは、やはりどの時代にも要求される勇気であり、卑怯であってはならないということです。最後に、「厳」とは何か。これは厳かであること。そして、必要なときには厳しく接することです。

 子どもたちを愛すること、慈しむことは、大変大事なことでありまして、これは「仁」の思いやりに通じることです。また、時としてリーダーがそうであるように、教師にとっても大事なことは、「厳」の厳しさです。真に思いやりを持ち、真を尽くすからこそ、その子どもたちの成長を願って厳しくあるということも、時には大事ではないかと思うのです。これは、生徒や学生に接する場合の教師、リーダーとしての教師の心構えと言ってよいかと思います。


●政治の最高指導者に問われる資質とは、政策的な総合力と全体的な判断力


 さて、リーダーをもう少し限定して、政治のリーダーという形で捉えようとすれば、第二に、政治の最高指導者に問われる資質とは、やはり何と申しましても、政策的な総合力と全体的な判断力ではないかと私は思います。

 この政策的な総合力と全体的な判断力とは、いかに重要な問題であっても、個別のトピックやあまりにも特別な問題にのめり込んだり、のめり込むあまり、他の重要な問題を忘れてしまうということは、あってはいけないということです。

 例えば、教育問題が大事だからといって教育問題に特化する。原子力発電の問題が重要だからといって反原発、あるいは、是原発と申しますか、原子力発電の有用性だけにこだわったり、原子力発電の廃止、廃絶だけにこだわるというようなことは、他の重要な政治の課題を忘れさせてしまいます。社会福祉、老人医療、少子高齢化の問題、こうした重要論点も併せて向かい合わなければいけないのが、政治の大事なテーマです。

 これは教育も同じで、自分の好むテーマにだけ生徒や学生を導いていくということは、おかしいのです。やはり、リーダーに大事なのは、一つのことだけにのめり込まないで、全体として重要な多くのテーマに接していくということが大事だと考...
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