高市政権が掲げる「責任ある積極財政」は、財政政策によって経済成長を促し、将来的な税収増で財政健全化を目指す方針である。しかし、国が資金を投入した際の経済成長効果を示す「財政乗数」は、「借金残高の多さ」や「高齢化」によって低下することが学術的に指摘されている。現在の日本はまさにこの状況に合致しているため、財政政策で経済を成長させることには困難が伴い、ターゲットを絞らない全分野への資金投入は単なるバラマキとなってしまうおそれもある。では、どうすればいいのか。「経済成長理論」が示す経済成長に必要な3つの要素を提示する。(2026年4月25日開催:早稲田大学Life Redesign College〈LRC〉講座より、全7話中第5話)
※司会:川上達史(テンミニッツ・アカデミー編集長)
≪全文≫
●「責任ある積極財政」――財政政策で経済を成長させるために
こうした状況の中で少し足元の話を考えてみたいと思います。
宮本 皆さん、新聞報道などで「責任ある積極財政」という言葉を耳にすることがあるのではないでしょうか。これは、現在の高市政権が掲げている政策です。これはどういうものなのか。私なりに解釈をしてみたいと思います。
冒頭で「経済成長が重要だ」という話がありました。これは全くその通りです。まず、経済が成長したら何が起こるのかを考えてみましょう。
経済が成長すれば、人々の所得は増えます。お給料も上がります。これはいい話です。所得が増えれば、もう少しものを買おうかなと思って、消費が増えるかもしれません。消費が増えれば、税率が同じでも消費税の税収は増えます。所得が増えれば、所得税収も増えます。
さらに、経済が成長しているということは、企業が儲かっているということです。企業の利益が増えれば、法人税も増えます。つまり、経済が成長すると、所得も増える、消費も増える、企業の利益も増える。結果として税収も増える。税収が増えれば、財政は改善方向に進む。
高市政権のポイントは、その経済成長をどう起こすかです。そこで出てくるのが、財政政策によって経済を成長させようという考え方です。国がお金を使えば、経済が成長する。だから、最初にドーンとお金を使っても、経済が成長すれば、やがて税収が増える。そうすれば、今お金を使っても将来的に返せるのではないか。さらに、経済成長というメリットもある。これが「責任ある積極財政」と呼ばれるものになるのです。
ただし、ここで大事な問いが出てきます。「本当に財政政策で経済は成長するのか」ということです。
これについては、実はいろいろな議論があります。ただ、財政政策で経済が成長するかどうかといわれると、「簡単ではないのでは」というのが、学術界、あるいは国際機関や政策現場での議論です。
例えば、国が1兆円を使ったとき、どれだけGDPが増えるか。これを測る指標を、専門的な用語になりますが、「財政乗数」と呼びます。端的にいえば、国がお金を使ったときに、どれだけ経済が成長するか、どれだけGDPが増えるかを測る指標です。
この財政乗数は、...