「財政危機だ」と長年問題視されながらも、いまだ破綻していないのが日本の現状である。これは過去の消費増税や景気回復による税収増が防波堤となったためだが、コロナ禍以降も続く巨額の支出は財政の不確実性を高めている。今後の政府債務の動向についてシミュレーション分析を行うと、債務比率はインフレに伴う名目GDPの拡大により、向こう10年間は低下を続けるが、その後は再び上昇に転じると予測されている。これをグラフの形状から「スマイルカーブ」と呼ぶが、その背景には、国債の利払い費が金利上昇の影響を受け始めるタイムラグというトリックが隠されているのだ。(2026年4月24日開催:早稲田大学Life Redesign College〈LRC〉講座より、全7話中第2話)
※司会:川上達史(テンミニッツ・アカデミー編集長)
≪全文≫
●「日本の財政が危ない」という警鐘はオオカミ少年か?
宮本 さて、これを踏まえた上で、では「財政は本当に問題なのか」ということを、皆さんと一緒に考えていきたいと思います。
(ところで)私は経済学者ですが、経済学者の中でも「オオカミ少年」と呼ばれる側の人間です。というのは、私は日本の財政が今すぐ破綻するとは思っていませんが、いろんなデータや将来のリスクを考えると、「財政はきちんと冷静に見ておく必要がある」という立場です。
こういうことを経済学者は長く言ってきました。その一方で、実際には財政危機は起きていません。(つまり)経済学者は10年~20年間も「財政危機は起こる」「財政は危ない」と言ってきたけれど、「実際には起こっていないじゃないか」「あなたたちは嘘つきだ」「オオカミ少年だ」と、いわれるわけです。
確かに、実際に危機は起きていませんし、それはよいことです。「日本の財政が危ない」と強く言われ始めたのは、世界金融危機、つまり、リーマン・ショックのあとです。2009年頃から、日本の財政は大丈夫なのかという声が強くなってきました。
先ほどの図でも確認したように、1990年代の日本の債務比率は、他の先進国と比べても特段高いわけではなかったので、日本の財政はそんなに危ないとは言われていなかったのです。言われ始めたのはリーマン・ショックの後です。
このグラフを見ていただいても分かりますように、日本の債務比率が突出して高くなり始めた頃から、日本の財政は大丈夫なのかと言われ始めたのです。
●実際に財政危機は起きていない2つのポイント
宮本 でも、実際に財政危機は起きていません。それはなぜかということですが、2つのポイントがあります。
1つは、消費税率が上がったことです。もともと3パーセントだった消費税が5パーセントになり、5パーセントが8パーセントになり、そして今は10パーセントになっています。つまり、増税しているのです。
増税は、財政にとっては悪い話ではありません。国民生活にとってよいかどうかは別として、財政の面では、増税をすれば税収は増えますから、財政は安定します。そういう点で、財政危機が起こらなかった理由として、実は消費増税はかなり大きな役割を果たしているのです...