●20世紀の病根と21世紀の進路
皆さん、こんにちは。
昨年(2014年)は、第一次世界大戦の開戦からちょうど100年を迎えた年になりました。今日は、その点を振り返りながら、日本を素材に歴史とは何かという問題について具体的に話を進めたいと思います。
まず最初に、15~16世紀イタリアの政治思想家であったマキャヴェッリの言葉を紹介します。彼は次のようなことを語っています。以前にも紹介したかもしれませんが、大変重要な指摘ですので、もう一度資料として提示しておきます。
「世の識者は、将来の出来事をあらかじめ知ろうと思えば、過去に目を向けよ、と言っている。この発言は道理にかなったものだ。なぜかといえば、いつの時代を問わず、この世のすべての出来事は、過去にきわめてよく似た先例を持っているからである。つまり人間は、行動を起こすにあたってつねに同じような欲望に動かされてきたので、同じような結果が起こってくるのも当然なのである。」(マキャヴェッリ著『ディスコルシ』第三巻より)
私たちが20世紀の問題を考え、そして21世紀の進路について予知しようとした場合に、2014年という年は、第一次世界大戦の勃発から100年に当たり、かつ中東においては「イスラム国(IS)」がシリアとイラクにまたがる形で活動を行い、そしてウクライナ、クリミア、ロシアにおいて緊張が醸し出された年にも当たるわけです。すなわち、現代の世界は、あたかも20世紀の初頭を思わせるかのような大激動に見舞われているのです。
今日は、カラーの資料映像としてパワーポイントなども使いながらお話ししていきます。今ご覧いただいているのは、14世紀のチュニジア生まれの歴史家イブン=ハルドゥーンです。彼は、その名著『歴史序説』において、次のようなことを語っています。
「諸々の状態が完全に変化する場合は、あたかも全創造が、全世界が変わったかのようになる。それはまるで、新しい創造、新しい生成が起こり、新世界が生まれたごとくになる。」
これは、岩波文庫にも訳のある著書『歴史序説』(アラビア語では『アル・ムカッディマ』)の一節です。こうしたイブン=ハルドゥーンの洞察は、あたかも現代中東の複雑な政治構図と混沌状態を予知していたかのような、あるいはそうした性格を解きほぐすかのような、非常に鋭く賢い洞察にあふれています。
●今の中東の混沌は第一次大戦に由来する
現在の中東の複雑な政治構図は、基本的に申しますと、第一次世界大戦中の連合国による秘密条約や矛盾した約束にさかのぼります。
例えば、1915年から1916年にかけてのフサイン・マクマホン書簡。これはアラブの独立を約束した書簡です。しかし、1916年に、サイクス・ピコ秘密協定が結ばれます。これはイギリスとフランスの外交官が、戦後の中東秩序を両国の領土として分割するために進めた密約でした。さらに、1917年にはバルフォア宣言が出されます。これはユダヤ人国家をパレスチナの地に建設することを認めたものです。
現在の中東の秩序は、基本的にサイクス・ピコ秘密協定によるイギリス・フランスの分割のラインに沿ってつくられ、そこにイスラエル国がパレスチナの中につくられることで、くさびが打ち込まれて、アラブの権益や本来持っている自決権を著しく損なう形で成立しました。つまり、20世紀の紛争、病根のほとんど全てが第一次世界大戦に由来するものであり、特にこれは中東に当てはまると言っていいでしょう。
●IS、ウクライナ問題の遠因も第一次大戦
2014年に、アラブの世界で性格の異なる三つの戦争が同時に進行しました。リビアにおいても同じですが、深刻なのは2015年3月に入って急速に事態が悪化したイエメンの内戦です。昨年(2014年)についてですが、まずガザにおける第三次ガザ戦争ともいうべきイスラエルとハマスの間の衝突がありました。シリアの内戦については申すまでもありません。さらに、シリアの内戦において頭角を現したISが戦争を起こし、イラクに勢力を拡大しました。最近、ISはティクリートを失い、スンナ派地域からもやや押され気味だといわれていますが、イラクにおいてまだ戦争が続いていることは事実です。
他にも、独立主権国家ウクライナの一体性を脅かし、クリミアを併合したロシアの動向が東ウクライナにおける内戦をもたらしていることは、周知の通りです。そしてアメリカ・ヨーロッパとロシアとの緊張は、国際政治の中心的な争点になっています。その遠因も第一次世界大戦とロシア革命にさかのぼることはご案内の通りです。
資料に示しましたように、このような中東とソビエト・ロシアとの関係を、また個人の伝記的研究と政治学的な国家論を、オスマン帝国解体期から中東...