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大国の没落やパワーシフト、相次ぐ外交失策・・・

第一次世界大戦100年と日本(5)歴史は繰り返す

山内昌之
東京大学名誉教授/歴史学者/武蔵野大学国際総合研究所客員教授
情報・テキスト
「歴史から学ばぬ者は歴史を繰り返す」が、「学者も無学の者も、ともに歴史を理解することができる」のが、歴史の特徴だ。歴史学者・山内昌之氏が、歴史から学ぶ姿勢を改めて問う。シリーズ「第一次世界大戦100年と日本」第5回(全5回)。
時間:06:08
収録日:2015/04/15
追加日:2015/06/01
≪全文≫

●唯一、冷戦時代に熱戦が行われたのは中東


 皆さん、こんにちは。今日は、これまでお話ししてきたことの結びとして、「歴史は繰り返す」と「歴史から学ばぬ者は歴史を繰り返す」をテーマに、第一次世界大戦から100年を経た現在、考えるべきことに触れたいと思います。

 私が専門とする中東地域では、国際政治における大国の運命を左右する試練が常に繰り返されてきました。第一次世界大戦ではオスマン帝国から大英帝国に力が移り、第二次世界大戦ではイギリスからアメリカに大きな力が移動しました。これは、非常に大きなパワーシフトが生じたということです。また、アメリカとソ連の冷戦時代における二大超大国の対立によって、4回にわたって中東戦争が行われ、その後も湾岸戦争やイラク戦争が余波として生まれました。唯一、冷戦時代にほぼ継続的に熱戦が行われていたのは中東だったのです。

 現在起こっているイスラム国(IS)の興隆と膨張を許したのは、アメリカが起こした湾岸戦争とイラク戦争、そしてバラク・オバマ大統領の外交失策であることは、ほぼ疑いがありません。オバマ政権の下で、アメリカは中東での影響力を確実に減らしただけでなく、むしろ中東にカオスと混乱と悲惨さをもたらした責任が問われるかもしれません。


●先人たちは歴史は繰り返すことを主張


 古代ローマの歴史家クルティウス・ルフスは、「歴史は繰り返す」と述べました。イギリスの保守主義をイデオロギーとして語った政治思想家エドマンド・バークは、「歴史から学ばぬ者は歴史を繰り返す」と指摘しました。そして、このシリーズの冒頭に紹介した『歴史序説』の著者でチュニジア生まれの歴史家イブン・ハルドゥーンは、「町の庶民や名もない人々も歴史を知りたがり、諸王や諸侯もそれを渇望する。学者も無学の者も、ともに歴史を理解することができる」と言っています。

 古代の歴史家、近世から近代にかけて活躍したイギリスの政治思想家、イスラムの中世から近世初期にかけて活躍した歴史家の中でも屈指の存在だったイブン・ハルドゥーン。ニュアンスの違いはあれ、いずれも歴史が繰り返すこと、歴史からものを学ぶことの意味を強く主張しています。


●歴史を読み、自分の志を常に励ます


 日本でこうした流れに属するうちの一人が、現在NHK大河ドラマの主人公の兄である吉田松陰です。

 大河ドラマでも、野山獄に幽閉された松陰が獄囚たちを相手に孟子を講義していましたが、その講義をまとめた書物が代表作の『講孟余話』です。その一節に次のような言葉があります。

 「読書の術の如き、世或は経を好み史を廃する者あり。是れ大に非なり。吾常に史を読み古人の行事を看て、志を励すことを好む。是亦(則)故而已矣古(これまたこにのっとるのみ)の意なり」

 いかにして本を読み、いかにして勉強すればよいのか。世の中には、ともすれば「経」、つまり抽象的な学問を好み、「史」、つまり具体的にものを考える歴史を拒否する者たちがいますが、これは大変間違っています。私はいつも歴史を読み、古(いにしえ)の人々が行ったことを見て、自分の志を常に励ますことを好みます。これこそ「古」にのっとること、つまり古の教訓に学ぶという意味です。松陰はこのように語っているのです。

 私たちは、昨年、第一次世界大戦開戦から100年を迎え、今年は第二次世界大戦終結から70年を迎えています。このような節目に際会し、歴史をどのように読み解くか。そして、歴史を政治や外交の手段として駆使し、歴史の事実性を常に道具としてしか利用しようとしない立場の人々や国々に対抗するために、私たちは、歴史とは何かを考え、もう一度初心に立ち戻って誠実に生きていかなければならないと思います。

 それでは、今日はこれで失礼いたします。
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