●入口論、観念論に終始した感のある集団的自衛権に関する議論
皆さま、こんにちは。前回の講義で、わが国の安全保障の構造についてお話をさせていただきました。その中で、「国家安全保障戦略」は、概ね10年を念頭に、わが国を取り巻く国際、国内情勢の変化に対応して、わが国の国益、すなわち、主権、生存、繁栄をどのように見定めて長期的視点から追求していくか、外交政策および防衛政策の基本方針として、2013年末、わが国で初めて策定されたものであると、ご説明をさせていただきました。
今回は、この国家安全保障戦略に基づいて実施される、防衛政策を推進するための重要なツールである「防衛法制」についてお話をさせていただきたいと思います。
第1次、第2次安倍政権の下で行われた政府の有識者会議「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会(通称:安保法制懇)」の内容が、2014年5月12日に安倍晋三総理に報告されました。それを受けまして、政府与党内の検討が行われ、そして7月1日に、集団的自衛権行使容認に向けた憲法解釈見直しに関する閣議決定が行われました。この一連のプロセスは、連日マスコミに大々的に取り上げられたことから、皆さんの記憶に新しいかと思います。
ただし、その議論の中身を見ますと、憲法解釈なのか、憲法改正なのか、あるいは、政府与党が検討した具体的事例といわれるものに妥当性があるのか、あるいは、蓋然性、要するに生起の可能性があるのかといった入口論や、他国の戦争にこれで巻き込まれるとか自衛官が犠牲になるといった観念論、情緒論に終始する傾向が強かったのかなと感じています。
●防衛政策推進の重要ツール・防衛法制に必要な二つの視点
安全保障法制や防衛法制は、国家安全保障戦略の根幹をなす防衛政策の実行や、自衛隊を運用する上での重要なツールであることから、本来その評価の尺度には、戦略を遂行する上での必要性や有用性という国家安全保障戦略との適合性、あるいは、現在から将来に予見される情勢、つまり、戦略環境の見積もりとの適合性といった、将来に目を向けた視点がまず一つあろうかと思います。
もう一つは、これまでの防衛法制に基づいて実際に行動して得た部隊運用での成果や教訓、すなわち、現場の声に基づいて顕在化している防衛法制上の欠陥の改善といった、過去に目を向けた視点も必要と考えます...