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国家安全保障戦略に基いて実施される「防衛法制」とは何か

わが国の防衛法制の変遷(1)冷戦期における安保体制

吉田正紀
元海上自衛隊佐世保地方総監/一般社団法人日本戦略研究フォーラム政策提言委員
情報・テキスト
今、集団的自衛権行使容認に関わる憲法解釈見直しをはじめ、わが国の防衛構造は大本から変容しつつある。防衛法制はその時々の国内外の情勢に適応し、改正されることでわが国の平和を維持してきた。前海上自衛隊佐世保地方総監・吉田正紀氏が、豊富な現場経験を通してわが国の防衛法制の変遷を語るシリーズ。(全4話中第1話目)
時間:15:38
収録日:2014/09/24
追加日:2015/05/14
カテゴリー:
≪全文≫

●入口論、観念論に終始した感のある集団的自衛権に関する議論


 皆さま、こんにちは。前回の講義で、わが国の安全保障の構造についてお話をさせていただきました。その中で、「国家安全保障戦略」は、概ね10年を念頭に、わが国を取り巻く国際、国内情勢の変化に対応して、わが国の国益、すなわち、主権、生存、繁栄をどのように見定めて長期的視点から追求していくか、外交政策および防衛政策の基本方針として、2013年末、わが国で初めて策定されたものであると、ご説明をさせていただきました。

 今回は、この国家安全保障戦略に基づいて実施される、防衛政策を推進するための重要なツールである「防衛法制」についてお話をさせていただきたいと思います。

 第1次、第2次安倍政権の下で行われた政府の有識者会議「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会(通称:安保法制懇)」の内容が、2014年5月12日に安倍晋三総理に報告されました。それを受けまして、政府与党内の検討が行われ、そして7月1日に、集団的自衛権行使容認に向けた憲法解釈見直しに関する閣議決定が行われました。この一連のプロセスは、連日マスコミに大々的に取り上げられたことから、皆さんの記憶に新しいかと思います。

 ただし、その議論の中身を見ますと、憲法解釈なのか、憲法改正なのか、あるいは、政府与党が検討した具体的事例といわれるものに妥当性があるのか、あるいは、蓋然性、要するに生起の可能性があるのかといった入口論や、他国の戦争にこれで巻き込まれるとか自衛官が犠牲になるといった観念論、情緒論に終始する傾向が強かったのかなと感じています。


●防衛政策推進の重要ツール・防衛法制に必要な二つの視点


 安全保障法制や防衛法制は、国家安全保障戦略の根幹をなす防衛政策の実行や、自衛隊を運用する上での重要なツールであることから、本来その評価の尺度には、戦略を遂行する上での必要性や有用性という国家安全保障戦略との適合性、あるいは、現在から将来に予見される情勢、つまり、戦略環境の見積もりとの適合性といった、将来に目を向けた視点がまず一つあろうかと思います。

 もう一つは、これまでの防衛法制に基づいて実際に行動して得た部隊運用での成果や教訓、すなわち、現場の声に基づいて顕在化している防衛法制上の欠陥の改善といった、過去に目を向けた視点も必要と考えます。

 私は長く現場の人間でしたので、まずは後者の視点でお話を進めていきたいと思います。


●わが国の安全保障、防衛の構造とその変化


 第1回の講義で、わが国の安全保障や防衛に関する構造について、私は川の流れに例えまして、源流、上流、中流、下流があり、わが国の安全保障の構造で源流に当たるものが日本国憲法で、専守防衛、武器輸出三原則、非核三原則、国防の基本方針および日米安全保障条約といった、わが国の安全保障の根幹に関わるものもこの源流に含まれ、上流には、防衛計画の大綱、日米防衛協力の指針、自衛隊法が含まれると説明しました。

 そして、39年間の自衛官人生の中で、私が長くいました現場、すなわち、国際情勢という実際の海と交わる下流においては、年々流れの変化のスパンが短くなり、その度合が激しくなるのに対して、中流、上流においては、この変化のスパンは5年から10年を要し、源流に至っては半世紀にわたりその流れを変えないものであった、と述べさせていただきました。さらに、佐世保地方総監として海上防衛の最前線の現場で約2年間日々指揮を執りながら、わが国の安全保障政策を大きく変える、すなわち、そろそろ源流に手をつけなければならない時期が来ているのではないか、という思いを強く持っていた、と申し上げました。

 そうした現場の立場から見て、現政権の下で約1年の間に行われつつある変革のプロセスは、どれ一つとっても従来タブーとして手付かずだった重大な懸案事項であり、源流を含めてその川の形は大きく変容しつつあることを、前回は肯定的に説明させていただきました。


●国内外の情勢変化に応じた防衛法制の改正が平和維持を可能に


 そういう立場に立つ私から見ますと、こうしたわが国の安全保障政策をめぐる大きな変革の一部である防衛法制のみが、憲法、あるいは、政府解釈まで踏み込んだ改正を目指したというその一点だけを捉えて、条件反射的、あるいは、感情的に反対することは、建設的な議論とは言い難いというのが、私の率直な意見です。

 防衛法も法律である以上、他の行政法と同じく、制定時の情勢と、その後のいろいろな情勢変化、いわゆる現在の情勢とのギャップを埋めるための努力、すなわち、情勢適応の原則が適用されることは当然であると思います。

 しかし、その実態は、他の法律の多くがそうであるように、国内外の情勢の変化...
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